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軋轢⑨

弟もたくさんの人に好かれて、告白されてるって聞いた。 俺の弟、最高に男前じゃん…わかるよ、だけどさ、それ以上に湯田は最高の男前じゃん? 湯田は女の子が好き。湯田とこうしていられることは、すごく奇跡のようなことで。 だから、いつかやってくるお別れを諦めかけている。 女の子のほうが可愛いし、湯田と並んだときにお似合いだしそれが一番、自然だし。 だから湯田が"普通"を選ぶなら…俺は、 湯田が正しい方へ行こうとしてるなら、こんな気の迷いかもしれない想いは早く終わらせて、正しい方へ行って… それを俺は見届けてあげないと。 それが"正しい"ことだろう? 「…シノ」 「…」 「どうしたらシノは俺を信じられる?」 それはきっと優しさからなのだと思う。でも湯田ではなく俺の問題であって、湯田に特別ななにかを望んでいるわけではなくて。だから…その言葉が、頭に残って言葉を失った。 黙りこくった俺を見て、小さく息を吐いた湯田に小さく笑う。 …ごめんね、って言うことすら許されない気がした。 観月はそんな俺らを見て神妙な顔をしたが、周りの同級生たちが腕を絡めて屋台を案内しようとしているのに気が削がれていた。ついでに、湯田も観月と一緒に連れていかれそうになる。 …待って。 待って。待って。 離れていく二人を後ろから追いかける。 人混みが俺を邪魔し、距離が徐々に開いていく。 湯田の望むもの、あげられないけれど… はぐれないように手を繋ぎたかった。 不安を掻き消すようにキスがしたかった。 …その本音は当然、口に出せなくて────。 この距離が自分で作った心の距離なのだと痛感する。 「篠川」 後ろから腕を引かれ、湯田を追いかける足が止まる。 聞き覚えのある声に呼び止められ、表情が固まる。冷や汗がたらりと頬を伝った。

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