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第5話
風間の言葉が頭から離れない。肉体仕事でよかったと思うほど、考えるのは風間の事だ。今まで誰かに優しくされたいなんて考えたことはなかった。ただ、こんな僕の目を覚まさせて欲しい、そんな誰かを求めていた。
それがあんな子供みたいな男だというのか?白い肌の、伸びやかな肢体に、小さな整った顔が乗った今時の大学生。爽やかな笑顔と軽い口調にごまかされがちだけれど、仕事も良くやるしお客さんに対しても誠実だ。
期待してしまう自分を否定できない。優しくだって?優しくされるって、どういう感じなんだろう?
僕は迷った挙句、藤田さんに、「もう桂店には行きません」とメールした。風間の言葉はきっかけだ。いずれやめるべきことだった。藤田さんは妻子持ちで、僕は彼と就業時間中に逢っていた。ただでさえ肩身の狭いゲイなのに、後ろ指を指されるようなことはもうやめたい。
藤田さんに電話やメールで怒られるかと思ったけれど、「わかった」という短い返信があっただけだ。そして僕はそれを皮切りに、出入り業者の営業にも、外部インストラクタにも、会員たちにも、まるで操られているかのように次々と淡々と、関係を断つ旨を伝えていった。
彼らは一様に理由を聞きたがった。僕がただ終わりにしたいだけだと話せば、次には薄ら笑いを浮かべる。「欲しくなるでしょ?」と、下劣なことを匂わせる。それでも僕の意思が固いと知ると、脅迫めいたことを口にし、最終的には罵られた。
あまりにも似通った反応に、僕の周りは同じような男ばっかりだったんだと改めて思い知る。風間は、違うんだろうか?
「そうじゃない。別に、風間は関係ない」
身辺を綺麗にしたのは、今までの怠惰で流されやすい自分が嫌になったからだ。それなのに風間に縋ったら、人数が変わっただけで何も変わらないじゃないか。……彼らと風間は、違うかもしれないけれど。
そうやって僕が独りで足掻いて四苦八苦している間も、風間はクローズシフトに意図的に入り続け、僕はラストシフトのメンバーが帰ったあとの二人きりの時間を、気まずい思いでやり過ごしていた。風間はあの日以来、僕に必要以上に近づいたりはしない。僕を名前で呼んだり、魅惑的な誘いも口にしたりもない。
彼が何を考えているのか、あれは何だったのか、僕は混乱していた。
今日もようやく仕事が片付き、何もない風を装う風間を無視するわけにもいかず、僕はボソボソとお疲れ様と口にした。風間はいつものように明るく爽やかにお疲れ様でーすと笑って返してくる。僕はそんな風間の顔をまともに見ることもできないのに。
「あー……僕、シャワー浴びてから、帰るから。先に帰ってていいし」
今日もそんなことを小声で言いながら、僕は自分のロッカーからタオルを掴み出す。背後で風間がユニフォームを脱いでいる気配がして落ち着かない。早く、シャワールームに行こう。
「藤田マネージャー、お元気ですか?」
予想外の言葉に、僕はロッカーの扉を乱暴に閉めてしまった。とっさに返事ができなくて震える手でタオルを握り、ロッカーに向かったまま俯いていると、風間が近づいてきて、肩を引かれて向かい合ってしまう。なんでこんな時にそんな楽しそうな笑顔なんだ。
「冗談でーす。最近、桂店、行ってませんよね」
「そう、だよっ」
「別れました?」
「……別れた」
「よく来てた、お金持ちの会員さんとも?」
「会ってない」
「ウェアの営業さんとか、この間ロッカーで口説かれてた会員さんとか、あとはぁ」
「全部だよ!全部切った!!」
「ですか~」
顔が熱い。風間はいつかと同じようにロッカーに腕を突いて僕を閉じ込め、変わらない高さから見つめてくる。どうしよう。どうしたらいいんだ。
「なんで?」
「なんで、って……」
「だって、ずっと前から色んな人と遊んでたんでしょ?」
「……それは」
「やだって言えるのに言わなかったのは、マゾネコなのかな、克彦さんは」
「ちが……」
「俺、優しいから。マゾネコちゃん満足させられないかも。経験少ないし」
「や……」
「なんですか?」
僕は思わず目を逸らす。違うだろう、何を言うつもりだ。別に風間の言葉で切ったわけじゃない。優しくされたいなんて、そんなの、違うんだ。だけど身体は正直で、股間に熱が集まってしまう。最近誰ともしてなくて、溜まってるから。風間だからじゃない。
僕が黙ったまま固まっていると、風間の長い指が、服越しに僕の乳首を刺激する。突然のことで、どうしていいかわからず混乱して、必死に唇を噛んで耐える。
だけど、口が勝手に動いてしまう。
「……優しく、されたい」
「そうなんですか?」
「だから、全部やめたんだっ。優しくしてくれるって」
「言いましたね、俺」
「だから……!」
「本当に優しくされたいですか?」
彼の手が、するりと僕の股間を撫でる。思わず身体が動いてしまって、金属製のロッカーに背中をぶつけて大きな音がする。風間の優しい愛撫で、僕の股間はどんどん大きくなってしまう。
僕は恥ずかしさを堪えて、小さな声で、風間を求めてしまった。ギュッと目を閉じて、風間の愛撫の続きを思うだけで、我慢なんてできそうにない。
「優しく」
「意地悪もなしで?」
「……乱暴は、嫌だ。本当は嫌なんだ。痛いのも、嫌だ」
「意地悪は好きだよね?」
「……」
「恥ずかしいのも好きでしょ?」
「……好き」
「了解でーす」
風間は楽しそうに返事をして、あろうことか跪いた。そして僕のウェアと下着をずり降ろした。汗ばんだ肌に貼りつくそれが上手く脱げないと知ると、もどかしくて僕は自分で脱ぎ、態度と行動で続きを強請る。
風間は低い位置から僕を見上げてにっこり笑うと、躊躇うことなく僕のを咥えた。
あまりの気持ちよさに、声が、漏れてしまう。
「すごーい。大人のちんちんって感じ……いろんな人にこすられてこんな色になっちゃうんだ?」
「や……ちが……っ!」
「優しいの、物足りない?」
「後ろ、に、欲しい……!」
「ダメでしょ、痛いのやなんでしょ?」
「優しく、してくれ」
「今日は無理~だってゴムもジェルもないからね」
自分でもわかるほど、後孔がヒクついている。そこに刺激が欲しいのに、今日はだめだと言われて、僕は思わず絶望的な声を出した。風間は口淫を再開し、その巧みさに僕はあっという間に彼の口の中で達してしまった。
「あ……あぁ……はん……」
「気持ちよかった?」
「よ、かった……」
「じゃあ、俺のもしてね」
もう誤魔化しようがない。僕は風間に抱かれたくて、優しくされたくて、ただそれだけを望んでほかの男との関係を解消し、ずっとこうされるのを待っていた。
上半身裸の風間は、近くにあったパイプ椅子に座って笑いながら僕に手招きをした。僕は床に手をついて彼に近づき、ウェアの上からでもわかるほど膨らんでいる股間に手をやる。
ああ、大きい。こんな大きいの、初めてだ。僕は彼のペニスを取り出して、無我夢中でしゃぶった。
「克彦さん……すごく気持ちいい」
「ん……んぅ……」
「今度ホテル行こうね。エッチしたいな」
コクコクと小さく頷きながら、僕は風間を見上げる。これを、入れて欲しい。すごく大きいから苦しそうだけど、きっと風間は優しいから大丈夫だ。彼はにっこり笑って僕の喉の奥まで自分のを押し込むと、腰を揺すり始める。
「あーいい……出る……出すよ」
「んっんんっ!んぐ……!」
喉の奥に熱い粘液が流し込まれる。苦しさと満足感で、僕は涙が出た。口の中が、すごく敏感になっていて、風間のペニスが出ていくだけで気持ちよくて、僕の股間はまた少し硬くなる。
「苦しかったですか?」
「ん……ちょっと……」
「ごめんなさい。俺、嬉しくて」
「……気持ちよかった?」
「すごーく。またしてね」
よかった。少なくとも、フェラは喜んでもらえた。僕は床に手膝をついたままで風間を見上げる。彼は小首を傾げて、シャワー浴びるんでしょ?と聞いてきた。
「あ、うん……」
「克彦さん、また明日ね」
「ああ」
僕は風間に、優しくされる資格を得たようだ。
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