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第6話

 二人でクローズに入っているときにコソコソと、ロッカールームで抜き合う日が何度かあった。仕事は片づけているという大義名分があるのはいいけれど、はっきり言えば物足りない。早く優しく抱かれたい。  僕は恥を忍んで何度かそう頼んでみた。風間は爽やかで明るい笑顔を見せ、今度ね、と聞き流す。  焦らされているのか、そういうことをするつもりがないのか。  僕はそれがわからなくて悶々としていた。  ある日、僕は仕事が休みで一人で映画に行った。観終わって外へ出ながら携帯電話の電源を入れると、着信通知とメッセージが届く。風間からの、初めての誘いだった。僕は動揺しながら彼に電話を掛ける。 「も、もしもし」 「お疲れ様です。今どこですか?」 「えっと、映画、観てて」 「ああ。それで圏外だったんだ。今日の夜、空いてます?」 「あ……うん」 「飯食いに行きませんか?」 「うん」  緊張しながら待ち合わせをして、暑い暑いと言い合ってから近くの居酒屋に入る。風間は酒が好きらしい。僕はそんなにたくさん飲めないので、美味しそうにジョッキを空ける風間を眺めながら、ちびちび飲んでいた。 「行きましょっか」 「……うん」  職場の立場も上で、年齢だって大きく僕の方が上回っているのに、風間は割り勘だと言って譲らない。レジの前で揉めるのもみっともないので、一万円札を風間に渡して、適当にしてと言って先に店を出た。生暖かい風が気持ち悪い。僕がシャツの襟元を抓んでパタパタやっていたら、風間が出てきた。 「おつり」 「ああ」 「あとでもいいです?」 「……うん」  もう一度財布を開ける必要がある、ということなのだろう。僕はすっかり風間にリードされていて、ただひたすら頷いて彼の後ろをついていくしかない。にぎやかなメイン通りの横道を入り、平行に伸びる裏通りに出る。そこは一気に卑猥な空気になっていて、風俗店とホテルが立ち並ぶ。風間は迷いもせずに歩を進めていく。どのホテルに入るんだろう?自宅からも職場からも遠い子の繁華街を選んでくれたのは偶然じゃないだろう。僕がよくこの辺りで男に会っているのは知っているはずもないだろうけれど。 「風間」 「はい?」 「……どこでもいいなら、ここがいい」 「はい」  僕は安堵の息を吐いた。風間がどのくらい遊び慣れているのかは定かではないけれど、男同士が使えるホテルは限られているし、その中で使いやすい所はさらに減る。僕がおずおずと一つのホテルを指さすと、風間は相変わらずアイドルみたいな爽やかな笑顔で僕に頷き、僕たちはとうとう部屋に入ってしまった。 「助かりました」 「え?」 「俺、あんまりこういうところ使わないからよくわからなくて」 「そう、なんだ」 「はい」  風間は年相応な顔で部屋の中をキョロキョロしている。先にシャワーを使っていいと言って彼をバスルームへ行かせ、僕はコンドームやジェルの準備をする。ここのホテルは備品が使えるから選んだ。得体の知れないホテルだと、ジェルもゴムも気持ち悪くて使えないけれど、ここはそういうのをちゃんとしているのが売りだから、コンドームもフィルム包装された箱が未開封で置いてある。ちなみに五個入り……まあ、妥当だ。ローションも分包タイプだし衛生的だ。 「お先です」 「おお」  風間は素っ裸に腰にタオルという格好で戻ってきた。真っ白い肌に程よい筋肉を持つ裸体は、僕にとって目の毒だ。思わず俯いて、僕は彼とすれ違うようにしてバスルームへ向かう。途中で腕を掴まれた。 「……いってらっしゃい」  キスされた。風間とキスなんか、初めてのような気がする。あまりの恥ずかしさに顔が熱くなって、僕はふらつきながらバスルームに逃げ込んだ。心臓に悪い。優しくって、ああいう感じなんだろうか?まるで挨拶みたいな爽やかなキスは、風間とじゃなくても誰ともしたことがない。 「ちょっと、落ち着こう」  期待しすぎて動揺しているんだろう。そうだ。風間は経験が少ないと言っていた。こういうホテルにだって慣れていないと。誘い方やフェラが上手くても、本番行為は大したことないかもしれない。もし上手じゃなくても、もちろん僕はがっかりしたりしない。僕の方が大人なんだから、ちゃんと気持ちよくさせてあげよう。 「あ、だめ、そこ、だめっ……!!あああ!」 「しんどい?やめる?ちょっと休憩する?」 「や、だ。もっと……」 「うん。克彦さん、かわいいね」  誰の経験が少ないのか、あとで正座させて問い詰めなければいけない。風間は大きなベッドに寝転がって僕を待ち構えていて、ひどくかわいい笑顔で手招きされた。ベッドにくっついているパネルで照明を暗くしていたら、克彦さんは暗いところが好きなの?とか言いながら僕の背後に忍び寄り、巻いていたバスタオルの隙間から手を差し入れてきた。完勃してて恥ずかしかった。  そこからはもう、頭に血が上った。優しくキスされながら、全身を撫でられて、身体が震えた。風間は僕を辱めるようなセリフは吐かないし、無理も無茶もしない。だけど、僕の反応には敏感で、そういうところを責めるときは容赦がない。僕はまだ挿れられてもいないのに、早々に射精してしまった。乳首が、やばい。 「風間、頼むから、いれてくれ」 「好きな体位、あります?」 「……バックが、好き」 「じゃあ、四つん這いになって」  僕がノロノロと身体を起こして背を向けている間に、風間はゴムを着けている。さっき白くて長い指で散々解された後孔は疼いて仕方がない。 「痛かったら言ってくださいね?」 「うん」 「素直ですね、克彦さん。いれるよ」 「…………ぅ!あ……っ!」  もうどのくらいセックスしてなかったんだろう。ちゃんと前戯を受けたとはいえ、久々の挿入に身体が強張る。ゆっくりと広げられる孔は、勝手に風間の亀頭に吸い付くように動く。 「痛い?克彦さんのここ、狭いね」 「いたく、ない……あ……」 「もっとやわらかいかと思ってた。……ちゃんと誰ともしないで待ってたんだ?」 「ん、ん……」  あの焦らされていると感じていた期間は、試されていたのか。僕が本当に他の男全部を切ったかどうか?ガキのくせに、そう言いたかったけれど、ローションのぬめりを借りて風間のがどんどん入ってきて、その熱さと太さに何も考えられなくなる。 「あ……長、い……奥……まで」 「克彦さん、力抜いて?」  風間の手が上半身に巻き付いてきて、背中にキスされながら、乳首を捻られる。僕は思わず身体が動いて、背中を丸めるように腰を中に入れてしまう。同時に尻に力が入って、思いきり彼のを締め上げる。 「だめですって……まだ、ほら、力入ってる」 「あ、だって……」 「ちゃんとほら、腰反らせて……できるでしょ?」 「んあ……!」  僕は枕に抱き付いて、緩やかに身体を伸ばし、尻を高く上げて風間が入れやすいような格好になった。同じような身長の男としたことがないから、風間が易々と僕に圧し掛かってきて、耳や頬にキスしてくるのが新鮮で、神経むき出しになったみたいに感じる乳首を弄られながらの挿入に、僕は何が何だか分からなくなって軽くイッてしまった。 「気持ちいい?」 「ん、いい……あ、あ……」 「感じやすいのは元からですか?それとも、そうされちゃったの?」 「は……わかんな、い……」  風間の立派なペニスが、僕の中を出たり入ったりしている。脳味噌が溶けそうだ。ゆっくりと探るような動きに、僕は時々大きく痙攣する。抑えきれない獣じみた声が漏れてしまう。 「ちょっと、協力してくださいね」 「え……あ、や、抜けちゃ……」  風間が体位を変えようとして僕の身体を後ろから動かす。今気持ちいのに、抜かれたくない。だけどそんな心配は杞憂だったようだ。長くて太い彼のペニスは、僕が多少動いてもしっかり入ったままだった。 「ゆっくりね……膝曲げて……」 「あ、風間、それ……!」 「痛くないよね?ここ、好きでしょ?ちんこの裏側、圧されるの」 「ひ、あ……!あああ……!」  半分寝そべるみたいにして枕に背中を預けた風間に、背中から抱きしめられて膝裏を持ち上げられる。下からの本格的な突き上げは、僕の自重をものともしないで、言葉通り僕のちんこの裏側を中からゴツゴツ圧して来る。ベッドに後ろ手をついて身体を支えるけれど、ほとんど風間の上に寝ているみたいになって、身体の力も抜けて、強烈な刺激に叫ぶしかできない。もしも正面に鏡があったら、ひどい醜態に目を逸らしただろう。 「どうしよ……、イク、僕、もうイク!あ!ああ!」 「足りないでしょ?俺、手がふさがってるから、自分で乳首触って」 「ん、んん……あ、気持ちい……!」 「ちんこはだめ……あとで触ってあげるからね」 「あ!あ!」 「孔がとろけてきた……克彦さん、エッチだね」  すぐ後ろから聞こえる風間の言葉と息遣いに促されるように、僕は自分で乳首を押し潰し、風間に前立腺を押し潰されて達した。勢いのない射精で、白い粘液が自分のペニスを伝う。それすら気持ちいい。  風間はそのまま僕を自分の上からゆっくりとベッドに下ろして脚を閉じさせると、半身を起こして腰の動きを再開する。長い腕で僕の脚を一まとめにして固定するから、僕は三角座りみたな体勢でベッドに横たわっていて、閉じた脚と角度の違いでまた違う刺激に震えた。太くて硬い風間のペニスが、僕を壊していく。 「克彦さん、こっち向いて」 「あ……んあん……んむ……」 「口の中も敏感なんだ?孔がきゅんきゅんしてる」 「風間、もっと、キスして……」 「はーい」  空気の潰れるいやらしい音をさせながら、僕の孔と風間のペニスが粘液とともにからまりあっている。そのままガンガン掘られて、ようやく風間が達したようだ。ぎゅうっと抱きしめられて腰を押し付けられる。その行為も初めてで、僕は涙が出そうになるほど感じた。 「か、ざま」 「すごくいい……克彦さんは?」 「うん……風間、優しいな……」 「そう?克彦さんはかわいいね」  彼は笑いながら僕のこめかみにキスをして、ゆっくりと身体を離した。僕は大きく息を吐きながら四肢を伸ばし、ゆるゆるとベッドに仰向けになる。すごい量の汗が流れていて、尻が熱い。 「やっぱり、すごくきれいな筋肉ですね」 「は……そう、か?風間も」 「胸筋がね、なかなか育たなくて」  風間は楽しそうに笑いながらコンドームを始末して、新しいのを一つ手に取る。期待してしまう。すぐ、もう一回するのかな?若いし、……まだすごく勃ってるし。  薄闇の中でチラチラと風間の股間を確認していたら、ゴムをつけた。嬉しい。 「克彦さん」 「ん……?」 「いっぱいしましょ。起きて」 「うん……」  風間の腕を引かれて、僕は身体を起こした。膝で立ってと言われてそうすると、風間が後ろから抱きしめてくる。その手には、ローションのパウチ。僕の胸の前で小さい音を立てて開封され、風間は自分の手のひらに中身を垂らす。 「腰、突き出して……」 「あ、ん!」 「ゆっくり、ね?克彦さん」  風間は小さなふり幅で僕の中を抉りながら、たっぷりのローションを僕の胸に塗り付けた。僕の乳首を指先で引っ掻くように撫で始める。僕は風間に背中で凭れ掛かって、身体を震わせる。 「あ。……あ。……んあ」 「克彦さんの中、すごく気持ちいい」 「あん、あ。……ふ、ん。あ」 「乳首もろ感だね。ああ……ちんこがすごい」  風間はそのローションまみれの指先で、僕のペニスの先端をくるりとなぞった。歯がゆいほどのかすかな愛撫に、思わず腰を突き出しそうになる。そうすると、後ろから入れてもらっているペニスが抜けそうになる。もどかしくて、頭が焼ききれそう。直接触れているかさえ疑わしいような、粘液越しの小さな刺激に、僕が思わずもっと、とねだると、風間の指は乳首に戻り、その代りに何度か激しく突き上げられる。ああ、すごい、もう何も考えられない。 「あ……気持ちい……触って、くれ」 「克彦さんの乳首、大きいね?だからこんなに敏感なのかな」 「もっと、ぎゅってしてくれ……」 「大丈夫。優しい触り方でも、イケるようになるよ」  風間は間断なく腰を動かして僕の奥の方を掘りながら、肩やうなじや首筋に優しくキスをしてくる。先走りが垂れ落ちそうになると、指を伸ばしてからめとり、それを擦りつけるようにして少しだけ先端を弄ってくれる。それがぞくぞくする。乳首は延々と撫でられて引っ張られ、そこで生まれた熱が身体中に溜まっていく。 「いく……も、いく……!」 「俺も一緒にイクね?」 「うん……うん……来て、あ、ああ、あああ!」  風間は手加減なしに後ろから腰を叩きつけてくる。それが息もできないほどの速さでの出し入れで、僕はあっという間にイッてしまい、ガクンガクンと痙攣しながら身体を前に折る。腰が抜けるほど気持ちいい。 「ごめんね、もうちょっと……あ……いいよ、いきそう……!」 「あう……!あう!あ!あふ……!」  風間は最後は僕の腰をしっかり抱いて、グダグダと崩れ落ちてしまう僕の身体を支えて中を擦りあげ、僕の中でイった。一緒にはイけなかったけど、たまらない満足感を味わう。  そのあと少しだけのんびりして、風間に腕枕されてキスされて、お礼がしたくてフェラをした。風間は気持ちよさそうな顔をしていた。そして大きく勃起したペニスを、また僕の中へ突っ込んでくれる。 「克彦さん、辛くない?」 「気持ちいい……」 「正常位、やだ?」 「やじゃ、ない」 「うん。キスもできるし顔も見えて、俺は好きだよ」 「僕も、好き」  肩で自分を支えて、膝を曲げて背中も腰も浮かせて、風間が絶妙なところを突いてもらう。気持ちよさに、身体がどんどん反って、腰が上がっていって、震える。風間は乱暴一歩手前の激しさで僕をまたイかせて、脱力した僕の上に乗るようにして、さらに腰を進めてくる。奥の奥まで入り込んでくる。 「あー……!!もう、も、あああ!あー……!」 「ふ……すごいね。イキっぱなしなんじゃない?足、こんなになって……」  風間は僕の足を見て笑う。膝裏を押さえられて、宙を蹴る僕の足は、快感と絶頂に目いっぱい力が入って、脚の指先までかたくなり、ぎゅうっと広がっている。風間はそんな僕の足の指の間に舌をねじ込んで、ねっとりと舐めあげた。 「ふあ……あ……ああ……!あーーー!!」  予想外の愛撫に、僕の背は反り返って持ち上がり、もう半分萎えていたペニスからだらだらと何か熱いものが流れていく。そのまま僕は硬直し、風間に何度か突かれて崩れ落ちた。風間はまた僕をぎゅっと抱きしめて達した。  僕は朦朧とする意識の中で、優しく抱かれることで得られる激しい快感から、もう逃げられないと考えていた。

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