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第4話

「も、だめ……いたい……」 「高木ー!さっさと展示会の報告まとめろ!」 「は、い」 痛い 身体中痛い 最近どこか痛いって言えばせいぜいアソコぐらいだったから こんなに全身痛いのが辛い キーボード叩くのも、いたい 「高木君、ものには限度とか程度ってもんがあるじゃん」 「だよな……なんか、張り切っちゃって」 「でもビックリ~まさかもう入会したなんて」 「期限、もうすぐだったし」 「そりゃそうだけど」 「今日から、ってのが秘訣なんだよ。何事も」 「お?ずいぶんいい事言うじゃん、和弥~」 俺たちより四、五年先輩の営業マンが 二人の会話を聞きつけて茶々を入れてくる 全然真面目じゃなくて めんどくせぇなぁが口癖で いいよ別にと誰かのミスにも寛大なこの人は 俺の入社以来の片思いの相手in職場だ あいにくノンケだけどさ 「大森さんも、運動したらいいのに」 「めんどくせぇ」 「言うと思った」 「浜中もやってんだろ?」 「はい」 「お前らデキてんの?」 「いいえ、まったく」 「だよなぁ」 「高木!報告!」 「今メールしましたぁ!」 上司に怒られながら始まる一週間 今日は元彼のいる病院へ行かなきゃならない しかも薬剤部に用があるから顔も合わせるだろう でも平気で無視できる自信がある だって俺はもう新しい恋をしてるからっ 「でも、いたい……」 「どれどれ?」 「いいいいいいたあああいい!!」 「高木、うるさい!!」 大森さんがグローブみたいな手で容赦なく俺の太ももを掴んだ 激痛に悲鳴が出る 面白がって腕も握ってくる 声も出なくて涙が出た 逃げようにもバキバキに筋肉痛で動けない 「な、なに、するんすかぁ……」 「お前ちゃんとダウンしたか?」 「ダウン?」 「筋肉ガッチガチじゃねぇか。ストレッチ、サボっただろう」 「あ……」 軽いジョギングがストレッチ代わりのダウンメニューのような気になって 確かに運動終わりのきっちりしたストレッチしてない ああ、この痛み 小阪さんの言いつけを守らなかった罰なんですね そう考えれば甘いお仕置きに思えないこともないかもしれません…… 「素人じゃないんだから、ちゃんとやれよ」 「はぁい……」 「今日は運動すんなよ」 「はぁい……」 大森さんも野球経験者 俺みたいな代わりのきく中途半端じゃなくて チームの要のキャッチャーだ しかも絵に描いたような強肩強打 今は月に一回くらいの草野球しかしてないけど 大学生まではガッツリ野球に明け暮れていたらしい 今でも身体は分厚い筋肉に覆われていて ムキムキでカチカチだ 背も高いから必ず「柔道とかやってますか?」と聞かれる 外見どおりの力持ちさんなので 社内はもちろん、得意先でも 重たい荷物の移動や時には引越しの時にまで声が掛かる めんどくせぇな、と言いながら 要領よくこなしていく大森さんはカッコイイ 仕事の要領もよくて俺や浜中のフォローを絶妙な力加減でやってくれる 「はぁ……いたい……」 「辛気臭いなぁ。シャキッとしてよね」 「浜中は筋肉痛、大丈夫だったのかよ」 「私は身の程を知ってますので、無茶しません」 「浜中、賢明だぞ。そういう差が成績にも出るんだな」 「大森さん、ひどい……」 「じゃあな。お前らもさっさと出ろ」 「はーい」 一生懸命とか見せないけれど 仕事のできる大森さんはペース配分が巧い 月曜日の朝という忙しい時にこそ あえていつもより早く会社を出て得意先へ向かう それって先週の仕事を先週のうちに片付けて なおかつ今日の準備ができてないとできないわけで 当然未熟な俺はまだまだ出られそうにない そして回れる件数が減り商談の機会が減り 成績が下降線を描く 浜中も月次報告をまとめるのに苦労している 彼女の場合は報告すべき成果や数字が多いからであって 俺のようにマイナス要因の説明に苦慮しているわけではない ああ、いたい 「続けられそう?」 「それは、そのつもり」 「そっか。可愛い子いた?」 「いた」 「へぇーよかったじゃん」 「うん。浜中のおかげ」 「じゃあ今度フレンチね」 「立ち食いのやつでいい?」 「え~いやだ~」 小阪さんはどんなご飯が好きなんだろう そういえば下の名前も知らないな どこに住んでるんだろう そのスポーツクラブの正社員なのかな 歳っていくつぐらいだろう 「高木……余裕だねぇ……」 「はっ」 気づけばぼんやりしていた俺の背後の上司が立っていて 仕事なんか手付かずでヘラヘラしていた俺に腕を伸ばしてくる 「や……やめ」 「しっかり仕事せんか!」 「いいいいたあああああああいい!!!!」 思い切り両腕を掴まれて 俺は衆人環視で羞恥プレイの餌食となった

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