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第3話

翌日の日曜日 俺は指定された時間に再びスポーツクラブを訪れた 昨日と同じく明るい笑顔で出迎えてくれた受付女子 そして 今日も爽やかでかっこいい小阪さん!! 「おはようございます」 「おはようございます」 「ご入会ありがとうございます」 「こちらこそ、末永くよろしくお願いします」 「任せてください」 身も心も!! 俺は赤い顔でコクコクコクと頷く 優しい笑顔 今日も逞しい身体 資料とペンを持つ手は大きくて ああ、その手でイカされたい…… 「では、こちらが会員証です」 「どうも」 「ロッカーの鍵にもなりますので、失くさないようにしてくださいね」 「はい」 昨日入会を申し込んで 支払い方法とか契約書とかの確認の時に 顔写真も撮影された その俺の間抜けな顔が会員証に貼り付いている 「今はキャンペーン中なので、ご希望の方に無料で簡単なメニューをお作りしているんですが」 「メニュー」 「はい。高木様の体脂肪や筋肉量を測って、なりたい身体への効果的な運動方法と運動量を」 「小阪さんがですか?」 「そうです。ダメですか?」 「別料金でもお願いしたいです」 「ありがとうございます。じゃあ、ええっと、理想とか希望はありますか?」 「理想……ムキムキ過ぎず……締まってて……あ、でも腹筋は割れてて……ポコポコはしてなくて……腕は太目がいいです。脚は細い方が。胸板は厚いに越したことはないですね。背中とかぎゅうっと盛り上がってる感じで」 「なるほど。結構大変ですよ」 「ですよね、でも、もう目処はついているので」 「そうですね。入会したんですから、後は努力次第で」 「はい!がんばってゲットします!」 「お手伝いしますね」 やだな、お手伝いだなんて 小阪さんは黙って俺を抱き寄せてくれればそれでいいのに 俺はニコニコしながら カルテに何事かを熱心に書きこんでいる小阪さんを見つめた 短く刈られた髪が爽やかだなぁ 「夜会員さんですので、十八時以降いつでもご利用いただけますけど、週何回くらいできそうですか?」 「俺、結構頑張れます!頑張れる男です!」 「そうですか。でもあんまり無理すると続きませんのでね、週三回で一度メニュー組んでみますね」 「週三回……二日に一回ですか」 「できそうですか?」 「全然オッケーです!」 週に三回も小阪さんと夜を…… 考えただけでテンションが上るよー 「じゃあ、行きましょうか」 「はい」 「まずロッカーで着替えていただいて、そのあと色々測定しますね」 「はい」 「僕は先にマシンフロアにいますので、準備が済んだらお越しください」 「はい!」 実は準備万端です いついかなるチャンスも逃さないよう 小阪さんの突然の欲情も受け止められるよう 高木和弥 二十八歳 抜かりはありません! 至って普通のジャージとTシャツに着替えて 俺は意気揚々とマシンフロアへ降りた 日曜日の日中ということもあるのか昨日より女性が多い気がする 残念…… 「あの、昨日とちょっと、客層違いますね」 「そうですね。高木様が通われる平日夜は、やっぱり男性の会社員の方が多いですね」 「そうなんですね!?」 「はい」 よしよしよし いっそオンリーナイトとか設定してくれればいいのに その日は週替わりで全裸とかふんどしとか指定して マシンだってソッチ系のに入れ替えて クラスも性感マッサージとかスローセックスのススメとか正しいトコロテンへの道とかを 小阪さんをはじめとするイイ身体のインストラクターさんに実地で習うんだ 鏡張りのスタジオでみんなの前でお手本見せたり サウナがいいならそれぐらいいいんじゃないの? 俺は楽しい妄想にニコニコしながら小阪さんの指示に従い 体重計の進化系みたいな機械に乗った 「動かないでくださいね」 「はい」 そんなに見つめられたら照れる…… モジモジしそうになった頃 ピピピという電子音で測定が終了した 「うーん……体脂肪は少ないんですが、筋肉量が偏ってるなぁ」 「はあ」 「左右のバランスがね。お仕事、何をされてるんでしたっけ?」 「営業です」 「重いもの、持ちますか?かばんとか」 「ですね」 「なるべく左右均等に持ってくださいね。あと、脚も組まないほうがいいですね。頬杖とかも」 「はぁい」 小阪さんはフロアの隅のブースで俺と向かい合って座り 計測したデータと俺の話を参考にして メニューを作り上げて印刷してくれた 「では、こちらです。ゆっくりやると小一時間掛かります。体力があれば、その後、有酸素運動のクラスとか軽いジョグもいいと思います」 「ジョグ」 「ゆっくりめのランニングですね」 「はあい」 「じゃあ、マシンの使い方を説明しがてら」 メニューに書かれたマシンを順番に回り 小阪さんがその鍛え上げられた身体を惜しげもなく使って俺に|奉仕《説明》してくれる まったく頭に入らない うっかりすると触りたくなるほどだ 「えーっと……高木様?」 「はい!」 「今の、わかります?」 「だ、だいたい……」 「じゃあ、ちょっとここに座ってみてください」 背もたれのあるマシンに座り 肩甲骨を寄せて肘を曲げて 胸の横辺りで握ったバーをまっすぐ前へ押し出す チェストプレスという、ようは座った状態のバーベル上げみたいな感じ 説明なので負荷は軽くて動作も簡単だけど シートに残った小阪さんのぬくもりがお尻から伝わってヤバイ 「マシンを使ったトレーニングは、意識が大事なんです。腰をしっかりシートに押し付けて」 「腰を押し付け」 「腹筋に力を入れて、身体を支えて」 そう言いながら小阪さんの手が俺のお腹に軽く触れた 力なんか入りませんけど!! 「で、鍛える筋肉を意識して……ここですよ」 小阪さんは自分の胸を指し示し いいですね?ここです そう言って俺の胸を触った そこじゃなくて、もうちょっと下かな! 「息を吐きながらグッと押して、ゆっくり戻すときに息を吸います。肩甲骨、寄せたまま」 入れられるときに息を吐いて アソコは締めたまま うん、そういう呼吸法は得意です 「高木様は経験者だから、やっぱり飲み込みが早いですね」 「そうですか?経験は少ないんですけど飲むのは得意です」 「え?野球、結構長くやってらっしゃいましたよね?」 「……あ。野球」 「はい、野球。ポジションどこでした?」 「守備範囲の広いセンターです」 「へぇ。センターって走攻守、三拍子揃ってるイメージですね」 「よく言われます」 顔も身体も感度もいいって 基本的には大きな筋肉から鍛えていって 上半身やったら下半身を大きい順に でもってそれを俺は三セット 使うマシンは全部で六種類 軽い説明だけなのに結構疲れる…… 「で、今のを、こちらに書いてある回数こなして三セット」 「け、結構きついですね……」 「でも、高木様の理想の身体にはこれぐらいしないと」 「近づけませんか!?」 「ですよ。まだ足りないぐらいです。少しずつ、強度や負荷をあげましょうね」 「はい!」 |理想の身体《小阪さんの身体》に|近づく《抱かれる》ためならがんばります! ちょっとぐらい強めのお仕置きも調教も耐えてみせます! あなた好みの男になりますからね! 「この後どうされます?」 「好きにして」 「へ?」 「あ、いや。どう、とは?」 「今日は軽いオリエンテーションでしたけど、このままトレーニングに入られますか?」 「あ……はい。ですね。せっかく来たので」 「僕もそれがいいと思います。何事も、今日からってのが続く秘訣です」 「ですか」 「はい。僕が言うんですから間違いないですよ」 「ですね!」 笑いじわを見せながら 小阪さんは優しく頷いてくれる あーやべ マジでキュンキュンする 早く抱いてくれないかなぁ 「トレーニングされるんでしたら、まずあちらでストレッチを」 「はい」 「ご存知ですよね。運動の前後はしっかりストレッチしないと怪我の元ですから」 「はい」 「ご案内しますね」 「はぁい」 八畳か十畳か そのくらいの結構なスペースにマットが敷かれていて 設置された大きなモニタには 基本的な全身ストレッチの説明ビデオが流れている 何人かがそこに座り込んだり寝そべったりして 思い思いに身体を伸ばしている あいにく全員女性だったけれど 男ばかりだったらそれこそサウナの仮眠室状態…… 「ここではシューズを脱いでくださいね。好きにして頂いていいですけど、最初はあのモニタのストレッチを真似されるといいと思います」 「はい」 「高木様、身体は柔らかい方ですか?」 「はい」 脚は真横に開くし そのまま身体を倒せば肘ぐらいは床につく やって見せると小阪さんは小さく拍手して褒めてくれた 「すごいすごい。柔軟性って大事ですからね」 「ですよね」 結構アクロバティックな体位もできますし 俺はようやく褒めて貰えて嬉しかった 残念ながら小阪さんとのデートはここまでで 彼は自分のクラスに行ってしまった 去って行く後姿も超かっこいい…… 「がんばろ」 運動は好きだ 汗をかくのも 動機は色々不純だけれど せっかくなので真面目に鍛えよう 幸い今日は目を奪うような男性も見当たらないから 集中できるだろう 俺はファイルに入れられた小阪さんからの調教プログラムを手に 黙々と真面目に筋肉を苛めた 走るのも好きなので メニューをこなした後一時間ほど走ってトレーニング終了 Tシャツもすっかり色が変わり 下着も多分ビショビショ でも気分はスッキリだ そういえば昨日も今日も俺を捨てた薬剤師のことなんか考えなかった 失恋を癒すのはやっぱり新しい恋なんだなぁ 俺は鼻歌を歌いながらロッカールームへ戻り どこにこんなにいたんだろうと訝しがるほど混んだバスルームで汗を流した 広い湯船のジャグジーに責められながら しっかりたっぷり行き交う裸体を楽しむ あーサイコー サウナもチラリと覗いたけれど ご老体が二人寝そべっていたので 先輩方の逢瀬を邪魔しまいと遠慮した 「あ!高木さーん!」 風呂を出ると身体がだるい 結構ハードだったもんなぁ でも心地いい そう思いながら受付へ行くと カウンタから爽やかイケメン風間王子様が手を振ってきた 振り返そうにも腕が上らない やばい 「がっつりトレーニングされました?」 「した……今になって結構キてる……」 「なまってたんですね~筋肉痛がひどい時は、お休みした方がいいですよ」 「そうなの?」 「無理はダメです」 「うん。ありがと」 優しいなぁ 可愛いなぁ 色白なのになまっちょろく見えない風間君 今日も明るい笑顔で癒してくれる ごめんなさい、小阪さん こういう歳下君に攻められるのも夢なんです でもでももちろん あなたみたいなガッチリ逞しいオトナにたっぷり可愛がられるのが一番好きですから! 「しっかり水分取ってくださいね。サプリとか興味あれば、ご相談に乗ります」 「サプリかぁ。プロテイン、昔飲んだなぁ」 「疲労回復とか、色々ありますからね」 「そっか。うん、ありがと」 「はい!お疲れ様でした~」 俺はフラフラと駅に向かい 大した荷物の入っていないバッグをものすごく重たく感じて マンションに着いた頃には 靴を脱ぐのも難しいほどの筋肉痛に襲われ始めていた

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