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第2話

「こんばんはー」 夜なのに煌々と明かりがついて 受付カウンタにいる男女も眩しいほどの笑顔 併設されているショップで水着とかジャージを見ている人もスポーティ スーツ姿の自分が場違いな気がして 俺は完全にビビりながら受付カウンタに近づいた 「こ、こんばんは。あの」 「見学ご希望の方ですか?」 「えっと、見学っていうか、通おうかなと思って、友達にチケット貰って」 「ありがとうございます!ではこちらへどうぞー」 元気いっぱいのポロシャツの似合う女の子は 俺をカウンタの横の簡単な応接ブースへ案内してくれて 俺の名前だけを聞いて簡単なアンケートを置いて行った 俺はそれにもそもそと回答しながら 彼女の戻ってくるのを待った 「お待たせいたしました、高木様」 現れたのは王子様だった 「……高木様?」 「あ・あ!はい!高木です!!高木和弥です!!」 「どうぞ、おかけください」 さっきの女の子と同じポロシャツを着たその男は 歳は俺より多分ちょっと上 薄く日焼けした肌に爽やかな笑顔 長い腕は筋肉質で机の下の長い脚もきっとそうだろう 見た目重視ではなさそうな筋肉は逞しいけれど暑苦しくない 名札をチラリと見れば「インストラクター 小阪」と書いてある 「アンケート終わられました?」 「あ、はい」 「拝見しますね。……はい、ありがとうございます。野球ですか」 「野球です……ダメですか」 「ダメなわけないですよ~僕も野球大好きです」 「そうですか!」 俺は野球より小阪さんが好きです! 夜の千本ノックを受け止めさせて! そう言いそうになるほどどストライク 笑うと笑いじわが出来て可愛い もう、食われたいっ 俺の書いたアンケートをざっと目を通して頷く小阪さん ああ、小阪さんっ 「紹介のチケットをお持ちだとか」 「はい。友人に貰って、でも期限が」 「ああ、いいですよそんなの。目安ですから」 「そうなんですか?」 「もちろん、本当はダメですけどね」 いきなり特別扱いですか!? 惚れてまうやろー!! 優しく穏やかに笑う小阪さんにチケットを差し出した手は震えていたかもしれない 浜中、ありがとう 運命の人にめぐり合えたのは君のおかげだ 俺もようやく幸せになれるぞ! 「期限、気にしなくて結構ですのでね。今日は見学されて行かれて、ご入会をご検討ください」 「はあぁ……」 焦らされるのは好きだけど もっとこう、強引に奪ってくれてもいいのに 俺は目の前のインストラクターさんに一目惚れをした衝撃で なんだか夢見心地だった 「何か質問はございますか?」 ゲイですか? そう聞きたいのをグッと堪える 「小阪さんは、何を教える人ですか?」 「筋トレが専門なので、筋トレ系のクラスのインストラクターがメインですね」 傍のラックからひらりと抜き取って 俺の目の前に広げられた時間割表 一時間前後を一単位にして エアロビクスとかヨガとかのクラスが一日中開催されている 「これは、月額に含まれるんですか?」 「はい。ご都合がつけば、どれでもご参加いただけますよ。いきなり上級者レッスンは難しいですけどね」 「はあ……」 「あとは、別途料金を頂戴して、時間制で個人レッスンをしたり」 「ここ、個人レッスン!?」 「それぞれに合ったメニューを作って、じっくりご自身の身体と向き合っていただくお手伝いをします」 「身体を向かい合わせる?」 「ちょっと違いますね」 「ですか」 「はい」 あなたの身体と向き合いたいです 服を着ていてもわかるその厚い胸板に抱かれたいです かっこいいなぁ 「高木様は、どのような目的でフィットネスを?」 「恋人を」 「……恋人?」 「あ、いやっ!最近ふられちゃって、なんかこう、健康的に汗を流してリフレッシュ!とか?」 「ああ、なるほど。それはいい考えです。汗をかくと気分もスッキリしますしね」 「身体も」 「ええ、身体もスッキリしますよ」 「ですよねー」 「高木さんみたいに素敵な方がふられるなんて、信じられないなぁ」 「で、ですか……?」 「はい」 にっこり笑う小阪さん キュンキュンときめく俺 もうだめ 無抵抗で恋に落ちちゃう…… 「では、館内のご案内をさせていただきますね」 「はい!」 「おーい、風間くーん」 ええ!? 別の人に代わっちゃうの? 俺は小阪さんと館内デートがしたいのに…… 「はい」 「見学の高木様。ご案内して差し上げて」 「はーい。風間です。よろしくおねがいします」 「よ、よろしく!」 二人目の王子様が現れた 小阪さんのような柔和な癒し系オトナむきむきインストラクターではなく 雑誌とかにでも載ってそうな今どきのお洒落な男の子、風間君 サラッサラの髪に元気いっぱいスマイル 小阪さんほどストイックな身体ではないものの 同じように長い手足はしなやかだ こ、好みかも~ 「風間は、まだ不慣れなのですが」 「不慣れですが、がんばりまーす」 「まーすじゃない」 「はーい。行きましょう、高木さん」 「高木様、だろう」 「はーい」 かわいーい!! 明らかに年下 っつーか、学生? 上から順番にご案内します、と言われて 一緒に乗り込んだエレベータの中で聞いてみると この辺りでは有名な大学の学生だと言う 「俺、身体動かすの好きなんですよね。他のバイトもしてみたんですけど、性にあわなくて」 「へえ……」 「さっきの、小阪とかにちょっとずつ教えてもらって、身体鍛えるの楽しいんです」 「そうなんだ」 「だから、高木さんもぜひ、一緒に楽しみましょうね」 「う、うん!」 「はい、降りてくださーい」 俺いいよ、三人でしても! したことないけど多分嫌いじゃないよ!! エレベータを降りると ガラス張りの壁の向こうはプールだった 短水だけどコースは六本 今は半分は水中エアロビクスで半分はウォーキングの時間らしい エアロビクスを教えているのは残念ながら女性だけど 監視員らしき人は素晴らしい身体の男性だった 思わずガラスに両手を当てて食い入るように見る 主に股間周辺を 「水泳、興味あります?」 「楽しそう」 「苦手じゃなければ、ぜひ。プールの使用も月額に含まれますので」 「そうなの?お得だね」 「お得ですかね?」 「水着買わなきゃね」 「はい。下のショップで使えるクーポン、入会時に差し上げてますよ」 「お得だね」 「お得ですね」 そろそろ、と促されて 一階ずつ階段を使って降りていく プールの下はロッカールームとバスルーム こんな感じです、と促されて見渡したロッカールームは 広々としていて清潔そうで 何より全裸とか半裸とかの男性がウロウロしているのだから堪らない まあ、大半は食指の動かない感じの人だけど 時々コレコレ!!っていう肉体美の人も通る 眼福~~ 「お風呂がですね」 「今入るの!?」 「うち、お風呂が売りなんですよね。温泉で」 「ああ、なんか、聞いたかも……」 「不衛生なお風呂、嫌じゃないですか。うちはすごく綺麗なんで、是非見てください」 「あ、見るだけね……」 ロッカールームから浴場まで洗面台がいくつも並んでいて 髪を乾かしたり色々している人たちはほぼ裸で スーツ姿の俺はますます浮いている やがて脱衣所を抜けていよいよお風呂 靴下、濡れちゃうんで~と 風間君がドアを開けてくれてチラッと覗いただけだけど 湯煙の向こうにたくさんの裸体が蠢く様子は圧巻だった どれもこれも素敵……な気がする よく見えないけど 「どうっすか?」 「大変結構だと思います」 「よかった~」 毎日毎日あんな裸見られるなら お風呂にだけでも来る価値あるよな 風間君はさらに俺を追い詰めるかのように重大発表をした サウナがあると言うのだ なんてことだ 狭くて熱い小部屋で 裸同士で汗を流し合うことまで出来るなんて 風営法に引っかからないのだろうか 「じゃ、次行きますね」 「おなかいっぱい……」 「へ?まだ全然っすよ」 「そう?体力あるんだね」 「はい!鍛えてるんで!」 絶倫っぽい 若いし一晩に何度もしてくれそう ダメだって言ってもいいじゃんいいじゃんって言われて中出しされちゃったりしそう 小阪さんはねっとりじっくりエロエッチしそう むしろ俺から中に出してってねだっちゃうようなことに 「ここがマシンフロアでーす」 「おお。ジムっぽい」 「ですよね」 たくさん並んだマシンの数々 お決まりの走るやつからおもりを引っ張ったりするやつ 使い方のわからないようなのまである 「ちゃんと、お教えしますので大丈夫っす」 「風間君は何を教える人?」 「まだ何にも。それこそマシンの使い方と、体脂肪の計り方ぐらいです」 「なるほど」 「でも、がんばりまーす」 音がしそうに楽しそうな笑顔 つられて俺も笑顔 エッチのことなら俺が教えてあげるよー マシンの並んだフロアの奥にはダンベルとかがあって その周辺はフーフー言いながら自分の身体をいじめてるお兄様方が 熱心にトレーニングに励んでいらっしゃった すっげぇ筋肉…… 抱かれたーい…… でもアソコ小さそう…… 「下行きましょっか」 「うん」 「下は、スタジオが二つです」 「スタジオ?」 「エアロビクスとかヨガとかのレッスンスタジオです」 「ああ……」 階段を降り始めるとすぐに軽快な音楽が聞こえてきて これまたガラスの壁の向こうで大人数が飛んだり跳ねたりしていた 楽しそうだ インストラクターが小柄だけどすごいマッチョ 好みじゃないけど楽しそうだ 「高木さん、興味あります?」 「……え!?」 「エアロ。男性はなかなか入り辛いみたいで。でも関心ありそうだから」 「あ……まあ……せっかくだし、食わず嫌いはよくないよね」 「高木さん、いいこと言いますね!ですよね~」 「ですよね~」 そしてもうワンフロア降りると最初のロビー ああ、楽しかった しばらくオカズには困らない 「おかえりなさいませ」 「こ、小阪さんっ!」 小阪さんはさっきのラフなポロシャツのユニフォームから ぴっちりしたコスチュームに着替えていた 大変!ビーチク警報発令中!! 「今からクラスがあるので」 「はぁ」 そう優しく俺に笑いながら 受付の子に何事か言い インカムを渡されている 「いかがでしたか?」 「最高でした」 「すごい感想ですね」 「え!?あ、いや、楽しくて!」 「そうですか。是非、入会をご検討くださいね」 「はい!」 小阪さんは俺に会釈をして 風間君にあとはよろしくと言って足取り軽く去って行った 上半身だけではなく 下半身もピッタリピッチリした薄い素材のハーフスパッツで 歩くたびにお尻がもうプリップリで…… 「高木さん」 「はい!」 「えーっと、どうされますか?」 「明日から来ます」 「じゃ、こちらで手続きを」 俺のハッピーライフの華々しい幕開けだ

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