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第21話

 春めいて、陽が長くなった。夕焼けの色が、冬のころとは違う。それを眺めながら、丁寧に寝床を調える。 「もうすぐかなぁ」  昨日早い昼食を一緒に食べていたとき、夜勤だから今夜は帰らないと郁さんが言った。夜勤じゃなくても帰ってこない日もあるけど、郁さんは予定をちゃんと教えてくれるから僕はそれに頷いて、郁さんの帰ってくるのを家で待ったり、孔雀屋へ出かけたりする。昨日と今日は家にいた。なぜなら、郁さんの話に続きがあったからだ。 「明日は夜勤明けで夕方くらいに帰ってくる。次の日は休みだ」  僕はお箸を置いて、一つ、頷いてみせた。それを見て郁さんも頷いた。ああ、とうとう。郁さんのいう二日目がうまいっていうことが起きるんだ。二日目かぁ。寝て起きて、二日目だって郁さんは言っていた。一晩に何度もというのはある。僕の男娼としての経歴は長くて、最初は下っ端だから日に数人のお客を取ったこともあるし、嫌なことをされたり強引なことをされたことも数えきれない。でも、どれほど格下相手でも妓楼で遊ぶのは金がかかるから、朝までいるお客は少ないし、さらにそのままもうしばらく部屋にいるお客には会ったことがない。だから、二日目がどうこうという経験はない。まあ、相手が変わるだけで連日の御奉仕が日常だったから、想像は出来るんだけど。  なんとなく窓の外を眺めては、ソワソワして落ち着かない。男娼としてお客を迎えるのなら、すぐに行為に及べるように準備しておく。それが今までだった。孔雀屋の最高位となってからは、馴染みのお客はみな落ち着いた方ばかりで共寝をしないことも多かったから、実は郁さんと寝たのが久しぶりの性行為だった。それ以降も、ない。準備が必要だと思う。郁さんだって僕だって、すぐにでも繋がりたいんだし、そのために痛い思いをするのは嫌だし。でも。 「ただいま」 「お、おかえりな、さい」 「どうした?」 「ううん、なんでもない」  玄関で音がして、慌てて出迎えに行く。郁さんは警察官だからか、僕の変化にすぐに気が付く人だ。今もそう。悩んでいる間に帰ってきちゃって、動揺しているのを見逃さない。そういうところもかっこいい。郁さんはそれ以上何も言わず、荷物を自室に置いて、手を洗ったり、部屋着に着替えたり、誰かに短い連絡を取ったりしている。それを眺めているのがすごく好きだ。やがて帰宅後の諸々が落ち着くと、僕の傍に座って、恥ずかしいことをする。もう慣れたけど、甘い口づけはまだまだ照れてしまう。 「今日は何してた?」 「郁さんが帰ってくるのを待ってた」 「ああ……布団まで敷いて」 「うん。お風呂入る?」 「入ってきた。ちょっと汚れ仕事だったもんでな」 「そう。お疲れ様」 「てことで、準備万端だ」  郁さんはそう言って、僕を抱えて寝室に連れて行って、フカフカの、二人で選んだ新しい布団に僕を寝かせてさっさと脱ぎ始める。思わず白状した。 「ご、ごめんなさい、僕、まだ、準備できてない……」 「ん?」  すぐに挿入できるように拡げてない。中に潤滑剤も仕込んでない。自分も乗り気だと思わせるために、着物を脱ぐときに隠し持っている冷たい金属片を乳首に押し当てて立たせたりもしてない。まずは、郁さんの脱いだ服を僕が畳んであげないと。頭の中で、やるべきかどうか悩んでいたことがぐるぐる回る。でも、じっと自分を見つめて話の続きを待ってくれている郁さんを見ていたら、思い出した。全部話せと言われていることを。 「……僕、男娼だったら色々しなきゃいけないことがあるんだけど」 「ああ」 「それって、お金払ってくれてるお客さんのためと、自分を守るためなんだけど」 「ああ」 「……してない、僕、なにも」 「そうか」 「郁さんは?」 「準備っつーか、要るものは買ってきといたぞ」 「そう、なんだ」  性行為に必要な基本的なものは、男娼であれば見世から買って自分で用意する。質の良いものや使い勝手のよいもの、使うと別の楽しみ方が生まれるのもなどは、客が別料金を払うことで用意される。その金をケチるくせに特殊なことをやらせようという客もいて、男娼は自分の身を守るために身銭を切ることもある。だから、郁さんが用意してくれたことにびっくりした。思いつかなかったのだ。そうか、そういうものなのか。 「お前はどんなのが好きだ?今日は俺の好みで買ってきたが」 「うん」 「俺は、匂いとか味がしないのがいい。邪魔にならんだろう」 「うん、僕もそれがいい」  見世で使っていたのは、香りのするものが多かった。客の記憶に残る"孔雀屋の香り"だ。自分の生活にも染みついている香り。そんなもの、ない方がいい。必要ない。郁さんは僕のおでことか頬に口づけをくれて、何も気にしていないような素振りで僕の着物も脱がせてゆく。 「俺とお前がいて、要るものがここにある」 「うん」 「お互いその気で」 「うん」 「準備万端だと思うがな。明日も休みだし、足りないものは何もない」 「うん」 「お前の乳首も立ってる」 「乳首だけじゃないよ」 「どれ、見せてくれ」  そう言ったくせに、郁さんは僕の唇を塞いでぎゅっと抱きしめてくれた。柔らかくて大きな舌が、僕のと絡まる。気持ちいい。郁さんは自分の用意した潤滑剤と自分の指で、僕のあそこを優しく拡げてくれた。慣れなくて恥ずかしくて、死ぬほど気持ちいい。挿入されたときには、意識が吹っ飛ぶかと思った。必死で、かろうじて、自我を保つのが精いっぱい。 「あ、あ、かおる、さ……!」 「力抜け、たまき」 「んー……!!」  力は、抜いてる、はず。ちゃんとしっかり入ってるし、郁さんも動けるはず。なのに郁さんは僕の頬や頭やお腹を撫でながら、力を抜けという。僕は息を調えながら郁さんを見上げて、ちょっと笑った。 「動いて、郁さん」  郁さんは返事もせずに間近に僕の顔を覗き込みながらゆるゆると腰を動かし始めた。顔、乱れてないかな。なんだか妙に気持ちよくて気を抜いているとそういうことに気が回らなくなる。ハッと我に返って、郁さんの首や背中に抱きつきなおす。そのたびに、郁さんは僕に口づけしてくれる。 「郁さん、きもちいい?」 「ああ……お前は?」 「すごく、いい」  嬉しい。僕が若い頃に通ってきてくれたお客さんたちは、わざわざ僕を買うためにお金を貯めて、一生に一度かもしれないという人も多かった。その頃には僕は孔雀屋の最高位ではないけれど、コトで噂が立つ程度には人気で写真も出回っていたからだ。そういう人たちは、早かった。がむしゃらに僕を抱いて、あっという間に達する。一度出して落ち着いたところで、僕がゆっくり奉仕をする。そして満足して帰って行った。郁さんは、そうじゃない。見世で僕を抱いたときも、十分僕を気持ちよくしてくれて、僕も嬉しくて舞い上がってしまったくらいだ。だから今日は、郁さんの方を気持ちよくしてあげたい。 「ん?」 「僕、上がいい」 「そうか」  体勢を変えて、仰向けに寝る郁さんを跨ぐ。これだと僕の方が自由に動ける。正直、さっきみたいに抱き合っていると、僕の方が先に気をやってしまいそうだから。お客さん相手にそんな風になったことなんかないのに。 「ん、ん、ああ……」  郁さんと指を絡めて手をつなぎ、それを支えにして腰を振る。郁さんのは身体に見合った大きさだから、しっかり出し入れをしようと思えば少し苦労するし、なんだかやっぱり、こっちが切羽詰まってきそうになる。 「あ、郁さ、あ、あ……!」 「たまき。こっち向け」 「んー!ん、あ、こ、こう?」 「ああ。いい顔だな、もうイキそうだ」 「ほんと?うれし……、い、ん、イッて、いいよ、ん、あ」 「もうちょっと動いてくれ」 「待って、あ、ん、いいよ、イッて、あ、かおるさん、イッて、あ、あ、あ!」 「う……っ!」  深々と咥え込んでいる郁さんのが中で跳ねる。ああ、イッてくれた。よかった。嬉しくて意識せず、郁さんのをぎゅううっと締め付けて搾り取ろうとしてしまう。郁さんの太い胴がピクピクしている。郁さんは大きな手で僕のを擦ってくれて、僕もあっという間に出して、それでまた、郁さんのをぎゅううっと締め付けてしまう。 「はぁ……郁さん、気持ちよかった……?」 「ああ。お前は?」 「気持ちよかったぁ……」 「そうか」  パタリと郁さんの胸に倒れ込んだ僕を抱きしめてくれて、目を閉じると自分の鼓動と郁さんの鼓動が重なって聞こえる。少し柔らかくなったのを抜いて、ぐったり脱力している僕を布団に寝かせて、郁さんは腕枕をしてすぐ傍に同じように寝転がっている。近いなぁ。僕が郁さんの無精髭をサリサリすると、くすぐってぇぞと指をパクりと食べられた。 「もう一回していいか?」 「いいよー」 「お前は寝てていいぞ」  郁さんはその後も、優しくゆっくり抱いてくれた。見世でした時もそうだったけど、こっちを気遣いながら、様子を見ながらって感じで、最初は少し緊張していた僕だけど、最後の方は調子を取り戻せて、郁さんに満足してもらえたんじゃないかなって思う。僕もすごく気持ちよくて、ちょっと声が大きくなってしまった。別に恥ずかしくはないけど、わざとらしいって思われたくないから、できるだけ噛み殺していたのに、郁さんがすごく上手に僕の身体を扱うからか我慢できないこともあって。でも郁さんは笑ってたから、僕がお芝居なんかしてないし大袈裟な振る舞いでもないってわかってくれてると思う。だから、そろそろ寝るかって言われた時も、ああ、よかったって心底満足しておやすみなさいって言ったんだ。  翌朝先に目が覚めたのは僕だった。隣の郁さんは僕を腕に抱いたまま寝息を立てていた。そっと離れようとしたけれど、腕は重いし力は強いし起こしたくないしということで早々に諦めた。困ったな。お腹の奥が、ちょっと変だ。昨日郁さんとしている最中、中で感じすぎたみたいだ。若い頃に中だけで気をやらせようと意地になったお客にしつこく指で責められた時にそれに近いようなことがあったけれど、基本的にはそもそも仕事中に自分の快楽を積極的に拾おうとはしない。偶然ものすごく相性のいいお客に当たったこともあるけれど、こっちがそう簡単に気をやっては接待にならない。普通にまぐわっていた昨日、それに似た昂りが来そうになったのは驚いた。相性がいいのかなって、嬉しくなった反面、はしゃいでる場合じゃないと郁さんに集中した。 「おはよう」 「ん、おはよ、起こした?ごめんね」 「いや」  もじもじしながら郁さんの腕の中で寝返りを打ち、背中を向けてから少しため息をついたら、背後から耳元で声がした。郁さんの声は低くてすごく響く、優しいいい声だ。今は、おなかに響く。郁さんはあくびをして、大きく息を吐いて、僕のことを抱きしめなおす。背中がすごくあったかい。思わずうふふと笑ってしまう。しあわせだなぁって、思う。 「髭、痛いよ」 「すまん」  僕の首筋に顔を埋めてくる郁さんの、いつもよりも伸びた無精ひげが当たって痛い。夕べ何度も口づけしていたから、口の周りとかもちょっと痛い。それでまた、笑ってしまう。布団の中で脚を絡め合って、郁さんの手が僕の手を掴まえる。ちょうど、僕のおなかのあたりで、落ち着かない。 「郁さん、あのね」 「抱いていいか」 「……うん」  布団を蹴り飛ばすと、さっさと潤滑剤も避妊具も準備してあっという間に挿入された。夕べの名残でまだ僕のあそこが柔らかくて、こんな風に始めるのは初めてで、思わず大きな声が出てしまう。 「郁さん、あ、あ」 「たまき」  昨日あんなにしたのにちっとも衰えない郁さんの逞しいものが僕の中に入っている。その状態で名を呼ばれて、おなかの奥がねじれる様に熱くなっていく。勝手に涙が出た。 「ま、って、かおるさ、まって、うごかな」 「たまき、夕べは遠慮していたがな」 「は!?どこが!」 「遠慮していた。でも、ちょっとわがままにやらせてくれ」 「だから、今はちょ、ちょっと、あ、だめ……!」  郁さんが本格的に身体を起こして僕の腰を引き寄せると、そのままガツガツと突き入れてくる。夕べも結構激しかったけど、なんか、ちょっとやばい。両方の肘を真上から布団に押さえつけられてうまく逃げられない。自分の足が、綺麗だって褒められる白い足が、空を蹴ったり硬直したりしているのが見える。どうしよう、このままだと、果ててしまう。 「かおるさ、かおる、さ、まって、あー!!あ、あ!あ!まって、だめ、だめ」 「俺のが当たってるな?気持ちいいところに」 「だめ、だめなとこ、なの」 「かわいいな、たまき。ここでイッたことねぇのか」 「それ、だめだから、だめ、あ、あ、あ……!あー……!!」 「暴れんな」 「や、だめ、ほんと、あ、う」 「無意識か?避けられないように縛って吊るすか」  郁さんが笑って言うけど、冗談かどうかわからない。何度もせりあがって来る絶頂感を必死で堪えている僕には、もし冗談だとしても笑い返す余裕なんかない。ずっとこういうことを経験しないようにしてきたのだ。お客の満足を引き出すための行為だから、自分を制御できる状態にしておきたかったし、性におけるすべては仕事で、必要以上の快楽を知りたくなかった。僕は多分あまり、性行為が好きじゃない。自分自身を明け渡してしまうような気がするから。だからそれ以外で接待する方が向いていて、そういうのを好んでくれるお客が贔屓にしてくれていた。郁さんには明け渡したって暴かれたっていいんだけど、身体に染みついた習慣はおいそれとは消えないものだ。別に知らなくてもいい領域だ。ほどほどでいい。だから、やめて欲しい。 「たまき」 「お願い、郁さん、ぼくそれ、あっ!あ、ん……!」 「俺は加虐趣味だ。泣くほどよがるお前が見たい」 「うぐ……!!ああああ……!!いやあぁあ……!」 「ああ……いいぞ、すげぇな……中がよく動くようになった」 「郁さん、いや、いやぁ……!」 「腰を逃がすな。本当に縛って吊るすぞ」  真っ白にとろけ切った頭の中で、いくつも光がパンパンと割れていく。我慢に我慢を重ねて堪えて、それが自分をさらに追い詰めているのはわかっても、もう解放させ方がわからない。深々と何度も内側を擦りあげられて悲鳴をあげて、ただひたすら大きすぎる快感に目を見開いていた。目の前に、郁さんがいるから。目を開けていれば郁さんが見えるから。もう名を呼ぶこともできず、押さえつけられて抱きつくこともできず、郁さんを見上げながら口を開けてされるがまま。郁さんはそんな僕を目を細めて眺めおろして、ああ、最高だと呟いた。お前が好きだとも、言った。嬉しくて、奥を突かれてとうとう達した。初めて聞くような自分の声が汚くて、がっかりした。震えと痙攣が止まらない。おなかの中が熱い。すごすぎる絶頂は、緩やかに収まっていくかと思えば波のように大きくなって戻ってきて、終わりがない。初めての経験に手も足も出ない僕を、汗まみれの郁さんがぎゅっと抱きしめてくれて、口づけをしてくれた。呼吸が乱れたままだから苦しくて、でも嬉しくて、僕はまた急激に昂ってしまって絶頂した。今度は唇を塞がれていて声が出なかったのが幸いだけれど、吐き出せなかった分、身体の深いところでどぷりと爆ぜて、気が遠くなった。  郁さんはそれからずっと僕を抱き続けた。加虐趣味だ、抵抗したり動いたりできないように縛って吊るすぞと口にしながら、でも本当に乱暴はしない。本気で僕を虐げるつもりなら、この程度で済むはずがない。優しさを失わず容赦をなくした郁さんは、時々僕の無意識の行動を矯正しようとする。 「気持ちいいな?」 「ん、きもち、ん、ん、あぅ……!」 「ここ、慣れたか」 「あああああ!んああ!───ヒッ……!」 「上手になったな、たまき、ここでイクのは気持ちいいな?」 「あ、あー……あー……きもち……いい、いっぱい……」 「いっぱいか」 「郁さん、は」 「気持ちいい。また避けてるな。ちゃんとお前の気持ちいいところを差し出せ。当てさせろ。気持ちいいのが来なくなるぞ」  太くてかたいものでズンズンと何度も突かれて、ああ本当だ、郁さんも気持ちいいんだ、全然気を使ってあげられない僕でも、抱いていて楽しいのかな、よかった、もっと上手に抱かれたい、気持ちよくなりたい、郁さんが好き、そんな風に多幸感が溢れてきて、先ほどまでとはまた違う絶頂に襲われる。この期に及んで、性行為の新たな境地を教えられるなんて思わなかった。受け止めきれないほどで、困惑しているけど、郁さんと一緒に気持ちよくなれるのが嬉しい。 「かおるさん」 「おねだりしてくれ、たまき」 「ん、も、っと」 「もっとなんだ」 「もっと、あ、教えて、ほし」 「ああ、お前は本当にかわいいな」  郁さんはもう力の入らない僕の身体を膝の裏に腕を回して抱き上げると、思うさま下から突き上げてきた。郁さんしか支えがなくて、逃げ場がなくて、わざと気持ちいいところを避けようとしたって無理なほどがっちりと抱きしめられて、強すぎる刺激に思わず仰け反った。晒した喉を郁さんにべろりと舐められて、食われるって思ったけど、そんなのどうでもいいほどの快感だった。思わず郁さんの二の腕に、わずかに爪を立ててしまうほど。それを見てまた、郁さんが優しく笑う。 「たまき。俺は客じゃない」 「あ!あ!だめ、も、やぁ……!」 「引っ掻いても噛みついても構わん。たまき、俺には何をしてもいい」 「かお、る、さ……あ……んあぁ!」  激しくなっていく動きに追い詰められて、郁さんの声に促されるみたいに、身体の奥から湧き上がる快感に耐え切れず、絶頂する瞬間加減できないまま思いっきりひっかいてしまった。郁さんがちょっと顔をしかめたのが見えたけど、力を抜くことなんかできない。腕の中で汚い嗚咽を漏らしながら終わらない絶頂に震えるしかできない。もはや抵抗も防御も消し飛んで、ただ全力で郁さんが欲しかった。郁さんが僕の唇を舐めて啄んで、焦点の合わなかった僕の目が郁さんを映す。思わず叫びながら首にしがみついた。 「かおるさ……かおる……好き……!」 「たまき」 「気持ちい、の、もう、だめ……かおるさん、ごめんね、痛かったよね、でも気持ちよくて」 「たまき……俺のたまき」 「あ……!」  郁さんがぎゅっと抱き返してくれて、僕は衝撃に耐えるように身体を丸めて、激しく腰を打ち付けられて何度も精液を吐き出した。勢いはなく、白い粘液がぼたぼどろりと流れ落ちる感触さえ震えるほどの快感だった。 ◆ 「もう、やだ」 「はー、うまかった……満腹だ……二日目最高だな……」 「もう、やだ。僕は郁さんともうしたくない」 「つれないことを言うなよ、たまき」 「だって郁さん全然僕の言うこと聞いてくれないし、僕すっごい何回もいやだやめてって言ったのに!」 「それは悪かったと思ってる。ちょっと嬉しくて調子の乗りすぎたな」 「そうだよ、郁さん調子に乗りすぎだよ、僕の身体なんだと思ってるのさ!」 「ほんとお前、いい身体してるよなぁ……」 「さーわーらーなーいーで!」  郁さんはにこにこしている。ものすごくご機嫌だ。その代わり僕はとても不機嫌だ。思い出しただけでゾクゾクと背中が震える。郁さんは散々僕を抱いて興が乗ったのか、四つん這いになる僕を上からすっぽり覆いかぶさるようにして、僕の両手首をがっちりと掴んで布団に固定し、僕の膝の内側に自分の膝を置いて脚が閉じられないように広げさせて、僕のふくらはぎを自分のすねで押さえつけて、つまり体格差を利用して完全に僕を閉じ込めるみたいな体位で、僕が今まで入れられたことがないような奥まで挿入した。さすがに驚いて、でもどうしようもなくて、侵入を許してしまった。耳元でずっと、郁さんが気持ちいい気持ちいいっていうし、好きだって言うし、その声そのものも荒い息遣いも愛撫に等しくて、協力しろ、力を抜け、全部俺に寄こせって、操られるみたいに言うことを聞いてしまってそこへ入り込まれた時は、絶叫と大量のよだれで咽た。信じられない。この僕がそんな目に遭うなんて。そんなところまで入れる必要がないのに、それをしたがるのは特殊性癖の範疇だと思っていた。長いものをただ突っ込んだだけじゃちゃんと入らないようなそこは受け入れる側の協力も必要で、それほどの快感はないけど、難関を二人で乗り越えたという満足感がいいのだろうと。 「気持ちよかっただろう?」 「……」  でも違った。可能な限りの最深部への挿入は、今までとは種類の違う凄まじい快感だった。窄まっているらしく、そこに郁さんの立派なものの出っ張りが引っかかって、ぐぽん、ぐぽんと抜き差しされるたびに強烈な絶頂に何度も押し上げられるし、大声で泣きわめくほどだった。おかげでまだ身体がおかしい。だから僕は不機嫌だ。 「たまき、機嫌を直せ」 「無理」 「お前が本当にかわいくてなぁ……」 「……騙されないから」 「天下の珠の進つったって、そりゃそうだよな、自分なんか後回しで、お客のために頑張ってきたんだもんな」 「……」 「抱き合うのは気持ちいいぞ、たまき。気持ちいいお前を抱いている俺はもっと気持ちいい」 「……二日目って、こういうことを初日からすると袖にされるからでしょ」 「ん?いや、やっぱり初日はちゃんと優しくしてやりたいから我慢して自制して遠慮してた。二日目は、ゆるくなったお前をゆっくり食うのがいい、」 「僕のあそこはゆるくないっ」 「あそこの話じゃねぇよ、ばか」 「ばかは郁さん!」 「なんだよ、本当にもう嫌か?やりすぎたか」 「……」 「たまき」  ぶーっと頬を膨らませてそっぽを向いたままの僕を、郁さんが抱き寄せる。その腕にミミズ腫れのようになったひっかき傷がいくつもついていて、肩や胸にも血が滲んでいるところさえある。こんなことしちゃうなら、もうあんなのことしたくない。あと僕、すっごいみっともなかったし。しょんぼりしながらそっと傷を撫でて、郁さんの腕の中で目を閉じた。郁さんは僕を胸に載せて片腕でしっかり抱いて、もう片方の手は僕の髪で遊んでいる。 「お前、最高にかわいいな、今すぐもう一回抱きてぇ」 「……死ぬ」 「俺は、お前に何されても死んだりしねぇし、たいていのことは受け止められるぞ」 「……」  郁さんが好き。とんでもない無茶をする人だったけど、でもやっぱり全部好き。今すぐもう一回抱かれてもいいかなって思うくらいに。現実的には全然無理だけど。 「……郁さんがお仕事忙しい人でよかった……」 「俺がこだわってんのは初回と二日目だから、これからは隙間縫って抱くぞ?」 「詐欺だ」  でも、好きだ。

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