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第4話
「あァ、ぁ、んん、っはぅ、も、……っもぅ」
「ん……いーぜ、イッて。オラ、──出せ」
指を絡め繋ぎ合った片手。同じ歳、同じ男のものと思えぬ程に愛らしい薄紅色をした欲の象徴を口内へ出し入れして扱きながら、その後ろにある慎ましい窄まりに押し挿れた指二本も滑らかに蕩けた中を行き来する。たっぷり丁寧に塗り込めた香油と先走りと唾液。ぢゅぽぢゅぽ、にちゅぐちゅと二種の粘った水音に嬌声が重なり、やがて限界に震える恋人を促す為、指の関節を曲げて中の弾力ある部分を中心にぐりぐり攻め立てた。同時にぱくぱくと震える鈴口を押し開く様に、尖らせた舌先で回し抉りながら亀頭を吸い上げる。
「ひぅん……! っあ、ア、ッふぁ、あ──ッ……!」
足の指が丸まり背を反らせた彼が子猫の鳴き声にも似た声を上げ、中はきゅぅと指を締め付けて、含んだ熱が白濁を溢れさせた。つい数刻前にも吐精させたが、数刻休ませ、ねっとりと中で数度上り詰めさせた後故か、ビュク、とぷりと溢れるのを最後まで吸い上げ躊躇無く飲み下す。
濡れた唇を舐め半身を起こして見下ろすと、月は煮えた蜜のように熱く潤んで、絶頂の余韻かとろりと男を見上げた。荒い息が整うまで髪や頬を撫でてやってから、やらしくて可愛い顔、と愉悦に満ちた笑みを湛え意地悪く囁くと、「すごく、気持ち良かったの……」と紅い顔でふわふわ言葉が返って来る。恥じらいに染まる様も唆られるが、快楽に蕩け切った様も堪らない。無造作に服を脱ぎ捨て、同様に一糸纏わぬ裸体を、彼の媚態にすっかり屹立した凶暴な欲望も含めて晒せば、ぐるんと体勢の上下を入れ替えて一言。
「オレも気持ち良くしてくれンだろ?」
彼は急な体勢変化に目を白黒させたが、すぐに心得て目元を染めながら頷いた。
唇が落ちて来る。男が付けた所有印以外には瑕疵一つ無い皇子と真逆に、傷みだらけの肌へ。人身売買組織に捕らえられていた頃の古傷、子飼いになってから皇子の目の届かない所でやられた嫌がらせ、妬み嫉みや逆恨み、一際大きい幾つかは男を邪魔に思った者に殺されかけた時のもの。彼は情事の時、それら一つ一つにそぅっと口付ける事を欠かさない。そして肌を吸って所有印を付ける事も。労り慈しむ優しさで唇が首筋から胸、腹、そしてその下へと下りて行く。
辿り着いた男の熱へもやはり、彼は愛を告げるに等しい美しき口付けを送る。その対象が見えなければまるで宗教画の題材にもなりそうなほど美しい其処に、血管の浮き出た凶暴な欲望を躊躇無く迎え入れた。朱唇の中へ呑み込まれては、出て来て、亀頭や雁首から裏筋を辿り根元へと丹念に舌を這わせつつ、白い両の手が撫で扱く。背徳的な程に官能的な様を一瞬も見逃さず目に焼き付けたいが、いじらしくも巧みな奉仕は堪らぬ程の快感を与えるが故に、しばしばどうしても瞼が塞がりそうになる。
「んっんっ、ふぁ、む……きもち、い……?」
見上げる大きな双眸に浮かぶ余りに純粋な、男の全てが愛おしいという情と、自分の男こいびとを好くしたいという情欲。熱い呼気を吐き出しながら、可愛い恋人の前髪を掻き上げてやるように撫でる。
「──すっげェ、いい。……出させて」
彼の眦に、子どもが褒められ嬉しがるのにも似た、けれど余りに嫋やかで色めいた笑みが滲んだ。そうして、男の陰茎への口淫と手淫を速くしていく。かわい──、男の唇から音を伴わず柔い空気だけで紡がれる言葉。貴く清らかな皇子が、ぢゅぷぢゅぷと粘った音を立てつつ淫らな奉仕を最下層出身の男に悦んでしているなど、誰も知り得ぬし想像も出来まい。彼が男の足さえ躊躇無く丹念に舐める事だって。二人には当たり前の愛情表現に過ぎない。
両手で扱かれつつ喉奥までも迎え入れ、濡れた柔らかな喉と舌に包まれ、口蓋の硬い部分に擦られる快感は凄まじいものがある。声を漏らしながら狭い間隔で頭を上下させ、朱唇を先走りや唾液でベタベタに濡らして己の屹立を貪欲に咥え込む恋人は、視覚にも暴力的なほど愛らしく淫靡だ。
「……──イク、」
一際強く走り抜ける快感に逆らわず、ひどく端的な呟きを零して彼の後頭部を押さえ付けると同時に、何の抵抗も無く自ら顔を寄せて来る口内へ、滾った欲望が迸った。ビュクびゅる、と爆ぜる白濁を、彼もまた恍惚と喉を鳴らし嚥下してしまう。甘露でも口にしたのかと錯覚してしまう程のうっとりした表情で、顎に伝う残滓を拭った指さえ子猫のように舐めるから、衝動のまま彼の腕を引っ張り口付けた。
甘える様は子猫のようだし、寂しがりな所は兎にも似た、貪欲な狼に喜んで喰べられようとする愛おしい生き物。男の理性も焼かれていく。上に乗せ騎乗位にさせた彼の双丘の間を、硬く隆起したままの剛直の先でつついて、ひくんと物欲しげに震える其処に滴る様な声音が囁いた。
「腰振れよ、リュカ」
上品な色っぽさなど一切無い、暴君のような言葉を言う癖に、ちゅっちゅっと耳朶を濡らす唇も声音もどろりと甘い。こうして甘い口付けを伴い強請られることに彼は滅法弱いのだ。とろんと頷く彼の瞳もまた、蜜の様な甘さを湛えていた。
男の剛直に片手を添え、ゆっくりと腰を下ろして行く表情は、堪らなそうに切なくも余りに色っぽい。男の前でだけ、淫らに咲き乱れる月。「ひ、んっ……おっき、い…僕のなか、ラウルで、いっぱいに……ッ」と熱っぽく呟いて理性を吹き飛ばしにかかって来さえする。熱く柔く蕩けているのに、舐めるように吸い付きキュンキュンと締め付けて来る中も同様だ。一度剛直を根元まで呑み込んでから、ゆっくりと揺れ始めた腰は、軈てしなやかに挿入を繰り返す激しさを伴い始める。
「あぁっ、ぁんっ……ア、はぁっ、ラウル、」
「……ハ、………なに」
「あい、してる……愛してる、の……ぁあん!」
「──……、……」
彼は愛を紡ぐ。まるで、言葉だけでは到底足りないのだと叫ぶように、言葉で、全身で。愛を尽くそうとする。
だから男も全身で伝える。分かっていると、愛していると、永遠に離さないと。
彼が陶酔し蕩けた顔で甘やかに喘ぐと、熟れた唇の間から真っ赤な舌が覗いた。しっとりと艶めいた白皙の肢体が二人を高みへ導こうと己の上でくねる度、蕾にも似た愛らしい色の屹立と下の膨らみをふるんふるん、と揺らしている。余りに美味しそうで膨らみへ思わず手を伸ばし、指の背で撫で揉むと、可愛い啼き声が上がった。その向こう、白い臀の間で柔い薄紅色した窄まりに呑み込まれては、媚肉に追い縋られながら引き摺り出される己の怒張。艶やかな髪を振り乱し、涙に濡れ光る長い睫毛の向こうで、熱に浮かされてけぶる月は男を一心に見つめ、大好き、気持ちいい、もっと欲しいと耐えず語っていた。愛し合う快楽を享受する事への、いとけなく純粋な貪欲さ。
齎される快感もさることながら、脳髄を茹らせる光景を悪戯しつつじっくりと見詰める男の双眸が、「可愛い」と呟きながら滾り静かな高温を孕んで行く。呟くと中がより強く締め付けてきて、双眸を潤ませ堪らそうな表情で目元を赫らめるのがまた分かり易くて煽られる。片手で後頭を掬うように引き寄せ、貪る口付けを角度を変えながら交わすと、舌が絡まる度に中がビクビクと強く収縮し波打った。二人の昂まりを察すれば、臀肉を両手で指が埋まるほど掴んで腰を穿ち、最奥に何度も喰らい付く。吐精無き絶頂の嬌声と共に一等激しい収縮が男の熱を搾り上げ、同時に男も白濁を中へとぶち撒けた。
「んん、んっ……んっ……、は、ァ」
広がる熱に恍惚と満ち足りる、あえかの声が彼から零れた。
けれどまだ終わらない。互いの息も整わぬ内に、また体制を入れ替え四つ這いにさせつつ、自らの熱を一度引き抜き香油を纏わせる。間を空けず細腰を引っ掴むと、全身で密着して奥まで一気に剛直を突き入れた。その衝撃で続け様に達した彼の陰茎を掴み、上下に扱きながら獣のような体勢で腰を打ち付ける。ぷちゅぷちゅと力無く精を零す鈴口へ指先を食い込ませ摩り立てた。吐精して尚も繰り返される刺激にゾクンゾクン、と尿意に似た切羽詰まる感覚が迫り上がったのだろう、「きちゃう、だめ……っ」と力無く逃げを打つ彼を容赦無く捕らえたまま。腰使いを変え、中の弱い所を回し抉りながら濡れた陰茎を小指から三本指でやんわり上へ扱いて、亀頭の割れ目を親指で弄り、示指で鈴口をくにくにと虐め抜く。
全身を強張らせた彼が声さえ出せず潮を噴かせられたのは間も無くの事。一瞬のような、永遠のような思考を焼き切る余韻の沈黙が漂いかけた、──然し。
「──ッあぁア、あ! あっ、だめ、ぇっ、まだイって、ッひあぁ、アぁ!」
ズプンッズチュ、ぬちゅぐちゅ。肌のぶつかる音と淫らな粘った水音が、煽り立てる激しさで嬌声に重なり、豪奢なベッドさえも軋む。ぎゅうっと抱え直され、深く速い律動が正確に一番奥まで抉るから、絶頂から全く降りられぬ彼は激し過ぎる責め苦に最早乱れ切って泣いた。頸をきつく吸い上げる男は言葉を放棄して、それでも止めない。普段は波が少ないが、時に最愛の恋人にさえも、──或いは最愛だからこそ、容赦の無い苛烈さを露にする男の性質を、誰よりも理解しているのは彼自身。後ろからすっぽりと覆い被さられ、烈しく乱されながら一切逃れられぬ体位は両者に支配を感じさせる。
「ラウ、ルぅっ、ッぁん、あ! ア、ぁ、イクの、とまらな、はぁっン……!」
「……オレで、イけ。オレだけ感じてろ、リュカ」
名を呼ばれるだけで、心までも抱き締められている心地だった。
支配される者と、支配し君臨する者。自我を失うのではと恐怖する程の快楽に翻弄される一方で、心の底でこの雄の君臨を悦び貪欲に欲しがっているのを、男は正確に察しているのだ。彼もまた男が決して自分を傷付けたり蔑ろにするような事をしないと識っているから、惑っても恥じらっても常に全身を委ねている。願った通り自分の奥の奥まで征服する最愛の男に、彼は幸せを実感していた。忘我し、過去の悲しみも、生まれに纏わるしがらみさえも今だけは忘れて、恋人と愛し合う幸せだけを。これからは、それだけを感じて良いと、全身で伝えられる。
男はいつだって、彼の望みを叶えてくれる。欲しがって振り向く前に顎を掬われ、口付けてくれるだけではない。昔からずっと。絶望に淀みながらも、余りに強い光を孕んでいたあの眼に射抜かれた時から、彼にとって変わらぬ唯一。
「んんっんっ、ァっあっ、きもち、ぃッ……っぜんぶ、喰べ、て」
「ッ……欠片も、……残さねーよ」
──跪くのも、喰らい尽くすのも、お前だけ。
──君の隣で一緒に。君に身も心も尽くしたい。
身体も心も捧げ、共に在り続けること。二人の望みが、やっと叶う時が来た。
愛する人を、愛していると他者の前で堂々告げられる時が。
幾度も幾度も達し、互いにどちらのとも分からぬ汗や体液に塗れ、繋ぎ目は白濁と香油の混ざったもので泡立ちぐちゃぐちゃになって。彼が気絶するように眠りに落ちるまで、恋人達は全身全霊で愛に耽溺し続けた。
子飼いと皇子は友となり、無二の親友同士となり、いつしか愛を尽くし合う恋人となった。互いを至上の存在と拝跪する程の強固なる愛を捧げて。
聖女の皮を被ったあの女だけではない。今日に至るまでに何度、引き裂こうとされたか。大切に大切に育んだ友情の中に恋情を自覚し、愛情へ昇華するまでも、その後も。数え切れないほど、二人の心は踏み躙られてきた。二人とも、それが当然の身の上だったから。一方は底辺に、一方は最も貴い出自であるが故に、対極に位置するその身も心も自分達のものではないのだと、まるで世の正しき理だとでも言うように。剰え、相手の幸せを思うなら、本当に愛しているなら身を引け、と断罪者のように奴等は二人へ宣った。
どうしても共に在りたいのならば、皇子の「愛人」として男を囲えと言われた事もある。第三皇子と言えど全ての皇族にとって血筋を残し、国の繁栄の為に身を捧げる事は義務だ。だからこそ民は皇族を頂点に据え、敬い、従い、守る。有力な正妻を娶り子を成せと糾弾される正当性を、二人とも痛い程に理解していた。然し思惑に塗れた者達が行った事はそれだけに飽き足らなかった。二人の心さえも引き裂かんとする卑劣な罠や策略、果ては男の抹殺、皇子を凌辱し強引に子種を得ようとさえして。己が利益の為に動いた悪だけではない。その中には正義を掲げた奴等だっていた。
彼と己が何をした。国と民の為を思い、尽くし続けてきた彼。そんな彼を己もまた幼少より支えた末に、二人へ齎されたのは何だ。愛する者が身も心も傷付けられ、人質にされ、命も尊厳も踏み躙られる事を甘受するのが正しき理なのか。
──それが理だと言うならば、その上に君臨してやる。
二人の幸せを理解しているのは二人だけ。外野からガタガタと決め付けられる筋合いなど無い。
引き裂くならば正義も悪も同じ。嘗て奪われかけた月を取り戻し、腕の中で泣きじゃくりながら男への愛を紡ぐ彼を抱き締めた時、己と彼を踏み躙るもの全ての上に君臨してやると男は決めた。彼をこの国から拐い、二人を誰も知らぬ地へ逃れる事も考えた。然し、彼しか持たぬ己とは違い、彼は大切なものを多く持っている。自国を愛する彼から何も奪わぬように、そして奪わせぬように。彼を幸福で包み込み、己が当然にその隣に在れる新たな理と環境を、この手で、そして二人で。
彼はいつも言う、「君を幸せにしたい」と。
「──お前がオレの幸せだ」
腕の中の幸福を抱き締めて、いとけない未来を想った。
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