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浸入③

 しかしアイスクリームを食べ終わると、そのゴミの処理に迷った。 「さて……。どうしたもんかな」  これをゴミ箱に置いていく行為は、かなり危険といえるだろう。  だって、家主不在の間に、元恋人が勝手に部屋に侵入した、証拠を残す事になる。  だけど……。  僕はニヤリと笑い、敢えてそれを目に着きやすい、キッチンのテーブルの上に置いたまま部屋を後にした。 ***  それから、数日後。  僕は再び、彼の部屋へと向かった。  前回同様勝手に部屋の鍵を開け、中に侵入する。  そしてまたしても勝手に、すでに空っぽであろう冷凍室の中を物色したのだが……。 「あれ……?」  中を覗いた瞬間、思わず声が出た。  空っぽだと思っていた冷凍室には、6個入りの、ミニサイズのアイスクリームの箱があった。  そしてそれには、こう書かれた貼り紙が……。 『家主不在時は、勝手に食うべからず。  必ず許可を取ってから!』  それを見た瞬間は、何を書かれているのか意味が分からなかった。  でもこれはつまり、許可を取ったさえ自由にしても良いという意味合いだろう。 「……何だよ、えらそうに。  いないのが、悪いんじゃないか!」  泣きそうになりながらも、僕は一人、悪態を吐いた。  そしてまた勝手にその箱を開け、アイスを食べた。 ***  それからもそういったやりとりが、4回程続いた。    今日もいつもの様にヤツの部屋に向かい、いつもの様に冷凍室のドアを開ける。  そして当たり前みたいに、アイスを取り出したその時だった。  ……いきなりグイッと腕を引っ張られ、背後から抱き締められたのは。  次の瞬間感じたのは、懐かしい彼の匂い。 「やっと不法侵入者を、捕まえた!  アイス勝手に食うなって、書いてあっただろ?」  見上げるとそこには悪戯っ子みたいに、優しく微笑む彼の笑顔。 「ぁ……」  小さな、言葉にもならない声が零れた。  それを見てヤツは、可笑しそうにクスクスと笑った。 「ったく、もう!いつ来るかと思って、3日も有給使っちゃったじゃん。  ちゃんと責任、取ってくれよな?」 「責任って……?」  まだ呆然としながら聞き返した僕を、彼はさらに強く抱きしめた。 「そうだなぁ。今日は一日、付き合ってもらおうか?  ……いや、今日だけじゃ駄目か。  これから一生、かなぁ?」  尚も笑いながら、ヤツは言った。  僕は逆に泣きそうになりながら、再び彼の顔を見上げた。  するとアイツは真剣な表情で、僕の瞳を真っ直ぐに見詰めたまま告げた。 「……お前の事が、やっぱり好きなんだ。  だから今度こそ、ずっと一緒にいてくれないか?」                 ...fin

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