3 / 3
浸入③
しかしアイスクリームを食べ終わると、そのゴミの処理に迷った。
「さて……。どうしたもんかな」
これをゴミ箱に置いていく行為は、かなり危険といえるだろう。
だって、家主不在の間に、元恋人が勝手に部屋に侵入した、証拠を残す事になる。
だけど……。
僕はニヤリと笑い、敢えてそれを目に着きやすい、キッチンのテーブルの上に置いたまま部屋を後にした。
***
それから、数日後。
僕は再び、彼の部屋へと向かった。
前回同様勝手に部屋の鍵を開け、中に侵入する。
そしてまたしても勝手に、すでに空っぽであろう冷凍室の中を物色したのだが……。
「あれ……?」
中を覗いた瞬間、思わず声が出た。
空っぽだと思っていた冷凍室には、6個入りの、ミニサイズのアイスクリームの箱があった。
そしてそれには、こう書かれた貼り紙が……。
『家主不在時は、勝手に食うべからず。
必ず許可を取ってから!』
それを見た瞬間は、何を書かれているのか意味が分からなかった。
でもこれはつまり、許可を取ったさえ自由にしても良いという意味合いだろう。
「……何だよ、えらそうに。
いないのが、悪いんじゃないか!」
泣きそうになりながらも、僕は一人、悪態を吐いた。
そしてまた勝手にその箱を開け、アイスを食べた。
***
それからもそういったやりとりが、4回程続いた。
今日もいつもの様にヤツの部屋に向かい、いつもの様に冷凍室のドアを開ける。
そして当たり前みたいに、アイスを取り出したその時だった。
……いきなりグイッと腕を引っ張られ、背後から抱き締められたのは。
次の瞬間感じたのは、懐かしい彼の匂い。
「やっと不法侵入者を、捕まえた!
アイス勝手に食うなって、書いてあっただろ?」
見上げるとそこには悪戯っ子みたいに、優しく微笑む彼の笑顔。
「ぁ……」
小さな、言葉にもならない声が零れた。
それを見てヤツは、可笑しそうにクスクスと笑った。
「ったく、もう!いつ来るかと思って、3日も有給使っちゃったじゃん。
ちゃんと責任、取ってくれよな?」
「責任って……?」
まだ呆然としながら聞き返した僕を、彼はさらに強く抱きしめた。
「そうだなぁ。今日は一日、付き合ってもらおうか?
……いや、今日だけじゃ駄目か。
これから一生、かなぁ?」
尚も笑いながら、ヤツは言った。
僕は逆に泣きそうになりながら、再び彼の顔を見上げた。
するとアイツは真剣な表情で、僕の瞳を真っ直ぐに見詰めたまま告げた。
「……お前の事が、やっぱり好きなんだ。
だから今度こそ、ずっと一緒にいてくれないか?」
...fin
ともだちにシェアしよう!