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望月綾人。
30歳、男、サラリーマン。
現在独身、恋人なし。
恋に枯れた俺は、悲しいかな、仕事に人生を捧げてる。
今日も遅くまで残業し、真っ暗な家に帰宅する。
「疲れた……。腹減った……。」
腹は鳴るけど、疲れて料理する気にもならない。
肩も腰も痛いし、なんなら全身怠いし、仕事のしすぎだと自分でも分かってる。
悲鳴を上げてる俺の身体をほぐしてほしい…。
こういう時って整体とか効果あるんだっけ…?
数日前ポストに入っていた整体クリニックのチラシを思い出す。
「たしかこの辺に……、あった。」
古紙回収に出そうとしていたチラシの束から、目当ての広告を見つけ出す。
城崎整体クリニック。
初回90分無料コース。
こんな赤字前提のクーポン、めちゃくちゃ胡散臭いけど、無料で整体受けられるならアリか…?
ものは試しだしな…。
明日…は無理かもしれないけど、一応電話してみるか。
スマホで電話をかけると、数秒で繋がった。
『もしもし。城崎整体クリニックです。』
「あ…。遅くにすみません。予約をしたいんですけど…。可能であれば明日……」
『申し訳ございません。明日は予約が埋まっておりまして…。別日でもよければ、お名前と予約日、ご希望のコースをお伺いしてもよろしいでしょうか?』
優しくて低い声。
なんか好きだな…。
つーか、やっぱり明日無理なのか…。
予約いっぱいってことは、人気のクリニックなのかな。
明後日は休日出勤だし、いつ行こう…?
「そうなんですね…。名前は望月です。えっと、チラシを見てお電話させていただいたんですけど、初回90分無料コースの方を…」
『すみません、望月様。明日ご予約可能です。』
「へ…?」
『是非明日いらしてください。お待ちしております。』
「え…。あの、予約いっぱいなんじゃ…」
『こちらの確認ミスで、キャンセルがあったことを失念しておりました。』
そんなことある…?
まぁいいか。明日だったら俺も助かるし。
「何時なら空いてますか?」
『望月様は何時がよろしいでしょうか?』
「え、でも一枠しか空いてないんじゃ…?」
『失礼しました。遅くなりますが、ラスト19時の枠でもよろしいでしょうか?』
「はい。よろしくお願いします。」
『では明日、19時にお待ちしております。』
「はい。ありがとうございます。失礼します。」
電話を切って、そのままベッドに飛び込む。
なんか変な人だったな…。
キャンセルあったから明日行けるのに、俺の都合聞いてきたり…。
まぁなんでもいいや…。
疲れ切った俺は、シャワーも浴びずにそのまま夢の中へと誘われた。
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