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第9話

「ご、ごめんね、しーちゃん。でもね、しーちゃんはどこもかしこも綺麗だけど、俺、別にしーちゃんのこと女の子だなんて思ってないし、女の子みたいに扱うつもりもないよっ」  両腕で顔を隠してしまった静流の背中を、焦った様子でさする陽介がおかしくて可愛くて。静流の目尻に涙が浮かぶ。 「しーちゃんの嫌なことはしない。絶対にしないから俺っ」 「じゃあ、しろよ」 「え?」 「陽介のしたいことしろ。お前に我慢されるのが俺の嫌なことだから」 「……しーちゃんっ!」  ガバリと覆い被さってくる重たい体を抱き締めて、大きく息を吸った。体のなかに流れ込む陽介のにおいが、夏の日差しみたいに静流のコンプレックスを溶かしていく。  細い体も、つるりとした顔も、陽介が好きだと言ってくれるなら自分も好きになれそうだ。 「あっつ。陽介、体温高すぎ」 「だってしーちゃんが好きだから、発熱しちゃってるんだよ」  覗きこむ焼けた顔で白い歯が光ってる。眩しい。眉をしかめた静流に、陽介の瞳が不安そうに揺れた。 「俺も陽介が好きだよ」  その言葉にひまわりみたいに笑った陽介は、明るくてエネルギーに満ちた夏そのものだ。  苦手だった季節が、好きに変わった。  日に焼けた首筋を引き寄せて、静流はもう一度、夏のにおいを吸い込んだ。 【おしまい】

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