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第6話

 その頃の僕は、仕事終わりに居酒屋をハシゴしてコミュ障な自分を改善しようと努力していた。Subと診断されて10年以上経つのに、僕はまだ深い関係を築けるDomに出会ったことがない。職場恋愛は仕事に支障がきたしそうで、嫌だった。  僕はひだまり相談室という相談センターの支援員をしている。困ったことや、自分一人では抱えきれない悩みを持った人達が電話をかけてくる。最後の命綱であることも多い。かかってきた電話をとって話をする。主に聞く側専門だ。電話ではコミュ障な僕は上手に隠れてくれて。聞き上手だねと言われることも多い。そして、仕事場での僕の評価は意外と高い。でも、自信が持てない僕はその評価を素直に受け取れないでいた。 「角ハイで」  本日2件目の居酒屋「しば家」。初めて来た店だ。大学生かフリーターと思しきアルバイトにそう注文する。「わかりました!」と言うと、アルバイトの男の子は元気に厨房に向かっていく。  店は4畳ほどのスペースに、カウンター席が8つ。2人席が3つあった。僕が店に入った頃には店の中は6割ほどの席が埋まっていた。ちびちびと持ってきてもらった角ハイを飲みながら、そこかしこで聞こえる話し声に耳をそばだてる。もしかしたら、自分も会話に入れるかもしれない。そう思って、話しかけてくださいオーラを放っているつもりだ。けれど、5分待てど30分待てども誰も話しかけてこない。僕は仕方なく角ハイを全て飲み干すと、店を出ることにした。

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