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第47話
翌朝、相良さんに揺り起こされて目が覚めた。
「雛瀬くん。起こしてごめんね」
「あ、大丈夫です……」
寝ぼけ眼で呟く。今何時? ああ、午前11時かーー!?
「やば……」
仕事。忘れてた。幸い、昼番だから出勤は14時からだけど。相良さんに起こしてもらわなかったら……遅刻してたかも。そう思うと血の気が引く。僕は今まで1度も欠勤や遅刻、早退をしたことがない。自分の中の決め事で、仕事のルールはきっちり守りたかった。
「昨日は特に何も聞いてなかったけど、何か予定があったら起こさないのは悪いと思って……でも俺も起きたのさっきだから。おあいこだね」
相良さん。前髪に寝癖がついてる……かわいい。僕はぺこぺことお礼を言う。
「すいません……ありがとうございます」
「うん。大丈夫。雛瀬くん、お腹空かない?」
「あ……空きました」
お腹に手を当てて考える。朝昼兼用になってしまうけれど、もうそんなのどうでもいい。こうして誰かと朝を迎えて、ご飯を食べられる。それだけで今までの自分の人生にはなかったことだから、嬉しい。
「いただきます」
両手を合わせる。相良さんの真似だ。1人で食べてる時は、手を合わせたりなんかしなかったけど。相良さんに出会ってからは、家で1人でご飯を食べる前にも、こうする。
「どうぞ。熱いから気をつけてね」
相良さんが作ってくれたのは、マッシュポテトと野菜たっぷりのポトフ。デザートにはマンゴーソースのかかったヨーグルト。僕の朝ごはんとは比べ物にならない。僕はたいてい、白米に納豆、たまに卵焼きを作って食べるだけだ。こんなに手の込んだものを朝から作れる自信がない。
まずはポトフに口をつける。ごく、と飲んだら野菜の旨みが。ベーコンの油もしつこくなくて美味しい。野菜の歯ごたえもちょうど良くて、食べ応えがある。マッシュポテトは綺麗な薄黄色。スプーンですくうと、びよーんと伸びて。1口食べた。ポテトの優しい甘さが口に広がる。マッシュポテトなんて食べたの初めて。こういう味がするんだ。
「どうかな。食べれそう?」
相良さんが僕の様子を伺うように聞いてきた。僕は「はい」と笑って答える。だって、美味しいんだもん。笑顔が勝手にこぼれてしまう。
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