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第49話
いつのまにか寝室のドアの前に立っていた相良さんの声に、体がびくりと跳ねる。僕は硬直した。どうしよう。なんて言い訳しよう。僕の頭はそればかりが渦巻いていた。
「君はほんとうに悪戯が好きなんだね」
相良さんの目……冷たい。怒っている……、呆れてるみたいにも見える。
「返して」
手のひらを出される。僕は写真立てを差し出すと、下を俯いて謝った。
「ご、ごめんなさい」
相良さんは何も言ってくれない。その代わりベッドサイドに腰掛け、手首に着けた時計を見ているみたいだ。足を組んで、様子は落ち着いているみたいで。人は怒ってもここまで落ち着いていられるものだろうか。僕はトレーナーの裾をぎゅっと握る。
せっかく仲良くなれたのに。相良さんの部屋を勝手に漁って……僕が怒らせた。なにか、言わなきゃ。
「kneel 」
「っ」
がく、と身体が床に落ちる。ぺたんとお尻を床につけて、足を開いて。なに、これ。人生で2度目のkeelに目を見開く。
「悪い子にはお仕置しないとね」
初めて見る相良さんの汚物を見るような瞳。嫌だ、こんな目で見られたくない。だから僕は懇願する。
「相良さ、ん。ごめんなさいっ。ごめんなさい」
「謝ったら何しても許されるの?」
目を細めて僕を見下ろす相良さん。纏う空気は重く、氷のように冷たい。幼い子に言い聞かせるように、僕を見る。射抜くように、心の奥底を覗くように。真っ黒な瞳が僕を映す。怯えて震えている僕の姿が映っていた。
「残念だよ。雛瀬くんはいい子だと思ってたのに」
僕の肩に触れる相良さんの手の重み。ずしん、と体に響く。肩を鷲掴みにされた。相良さんの手にかかったら僕の細い肩の骨など、すぐに粉砕されてしまうだろう。僕はただ体をがくがくと震わせて黙っているしかなかった。
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