74 / 276

第74話

「これ全部、相良さんが作ったんですか?」  サニーレタスとパプリカ、紫玉ねぎ、ミニトマトが乗ったサラダを1口食べてからそう聞いた。このレタスしゃきしゃきで鮮度がいいんだ。 「今日はたまたま仕事が早く終わってね。男の手料理っていうのかな。雛瀬くんにお腹いっぱいご飯を食べさせなきゃと思って」  「どうしてですか?」と聞こうとしたら、相良さんは少し茶化すように言う。 「雛瀬くんにはもう少しふくよかになってもらわないと、俺が心配だから」  そんなに痩せてるんだ、僕。そりゃあ筋肉があって引き締まった身体の相良さんと比べたらお粗末だけど。僕は、自分の体型は平均か、平均より少し痩せすぎくらいだと思うんだけどな。 「仕事も夜勤が多いみたいだし、栄養あるもの食べないと身体が壊れちゃうからさ」  相良さんがドリアをスプーンですくいながら言う。心配してくれてるんだ。その事実がたまらなく嬉しい。  ドリアの真ん中にスプーンを差し込む。とろ、と溢れてくたチーズが落ちないように慎重に口元に運ぶ。 「おいしい!」  チーズがとろりと舌の上でほどけていく。ミートソースの濃厚な香りが食欲をそそる。僕はぱくぱくと口に運び、飲み込んでいく。相良さんはそんな僕の様子を見ながら、食事に手をつけていた。 「雛瀬くんが切ってみる?」  ナイフを手渡され、僕は小さく頷いた。ローストチキンを切ろうとするが、油が滑ってなかなか刃が入らない。もたもたしていると相良さんがそっと僕の手を掴んだ。2人して立ち上がって、ローストチキンに向き合う。すぐ近くには相良さんの熱があって、僕はローストチキンに集中する余裕はない。この前、ああいうことをしたばかりでお互いの裸は見たはずなのに、どうしようもなく恥ずかしい。今は服も着てるし、別にやましい気分なんてないのに。そばに居るだけで、こんなに緊張するなんて。 「雛瀬くん。危ないから、集中して」  相良さんが慎重に僕に言い聞かせる。僕はうんうんとうなづいて、ナイフの柄を持つ手に力を込めた。ぐに、とお肉にナイフが入り込んでいく。なんかこれ、結婚式とかでやるケーキ入刀みたいだ。なんてことをのほほんと考えていた。 「ジューシーなのはいいけど、結構切りにくいから後は俺がやるよ」  そう言うと、相良さんはてきぱきとローストチキンを切り分けていく。まさに早業だ。僕のお皿に4切れのローストチキンが載せられた。

ともだちにシェアしよう!