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第98話

「優希のオーダーで聞いてるんだけど、全頭薄いピンクでいいんだよね?」  あれ。志麻さんの口調が若者言葉になった。僕に気を使って、緊張しないようにって配慮してくれてるのかな。僕はこくりと頷く。 「じゃあまずは、ブリーチっていうのをしなきゃならないんだけど……やったことはないんだよね?」 「はい。1度もしたことないです」    ブリーチっていう言葉はなんとなく聞いたことあるけど……不良たちが金髪に染めたりするときに使う、髪の毛の色素を抜く薬剤じゃなかったっけ。 「初めてだから、少し痛くなったりするかも。そのときは遠慮なく教えてね。ドライヤーの風で気を紛らわすことはできるから」 「……はい」  志麻さんは、そういうと準備をしにバックヤードへ向かってしまった。え、ブリーチって痛いものなの? 僕、痛みに強い方じゃない。どっどっどっどっ、と心臓の鼓動が早まる。 「さ、相良さん……」 「どうしたの? ……怖くなっちゃった?」  僕はうんうんと大きく何度も頷く。半ばパニック状態だ。これから痛いことするよ、なんて事前告知されてるようなものだから。相良さんは、僕の手を取って軽く握ってくれた。 「大丈夫。志麻の腕は確かだし、本当に痛くて無理だったらやめてもいいから。だから、ちょっとだけ頑張ってみよう?」  相良さんの言葉は魔法だ。その言葉だけで、僕の心臓は普段通りのリズムを刻み出す。ちょうどそのとき、志麻さんが帰ってくるのが見えたので僕はそっと手を離した。相良さんは僕のことを見て目元を緩ませていた。こういうふうにSubを着飾りたいって思うのはDomの性質なのだろうか。僕はふと、そんなことを思っていた。 「じゃあ、まずは耳をラップするね。くすぐったいかもしれないけど、我慢してね」  髪の毛を耳にかけられる。僕の髪はいたって普通の前髪のあるショートヘアだ。女子なんかがいう髪の触覚部分が邪魔なときは僕はよく耳にかけるようにしていた。ラップをかけ終えると、さっそく志麻さんが液状のものにハケを塗り出した。

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