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第99話

「今からブリーチしていくけど、染みたり、熱くなったりすると思うから我慢できそうにないときは教えて」  ハケで髪の毛の根元から液体を塗られる。液体自体は冷たくて、少し変な感じがする。頭の半分を塗り終わったところで僕の頭に異変が起き始めた。なんか、熱い……火傷みたく痛いわけじゃないけど、熱があるみたいに……。 「ちょっと熱くなってきた?」 「はい。少しじわじわきてます」 「あと半分くらいだから頑張って」  僕はちらり、と鏡越しに相良さんを見た。仕事のやりとりをしているのか、スマホをいじっている。長い足は優雅に組まれ、ここから見ると高級なソファに座っている高貴な猫のようだ。きっと黒猫。相良さんの髪の毛は黒だし、瞳も綺麗な黒だ。 「はい。じゃあ、10分ほど馴染ませるね。雑誌置いとくから良かったら見てね。飲み物はどうする? 優希から甘いものが好きって聞いたからピーチティーを用意してあるんだけど、飲む?」 「あ、じゃあお願いします」  ピーチティーは僕の好きな飲み物ランキングでは3位以内に入るお気に入りだった。相良さん前もって志麻さんに教えてくれたのかな。すごく根回しがいい。  志麻さんが手に持っていた雑誌を僕に見せる。とん、と鏡の前の出っ張った机に置かれたのは、若者向けの洋服雑誌。僕はこういうものはあまり読まないけど……なんとなく手に取ってパラパラとめくってみた。なんか、めちゃめちゃかっこいいお兄さんばかりいる……ん? あれ、この人って……。 「あ、気づいた?」  ピーチティーを持って戻ってきた志麻さんがえへへ、と笑う。僕は志麻さんからピーチティーの入ったプラスチックのカップをもらって、その顔をまじまじと見つめた。間違いない。雑誌の中にいたのは、志麻さんだった。白い壁に背を預けてポーズを決めている。片足を上げて、髪の毛を抑えて。 「兼業でモデルもやってるんだよ」  志麻さんが人のいい笑みを浮かべる。すると、今まで黙っていた相良さんが一言付け加えた。 「志麻は自分のブランドも持ってるからね。化粧品も服も全部自分でプロデュースしてるんだよ」  スマホからは目を離さず言った相良さん。忙しいのかもしれない。僕は「へえ」と頷く。志麻さんみたいなイケメンならそりゃそういうこともできるよね。僕は納得しつつ、目の前の雑誌に手を伸ばした。

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