100 / 276
第100話
「じゃあ、2回目いくね」
「……はい」
薄いピンク色に染めるためには、ブリーチを2回しなければならないらしい。なんとなく、頭の表面がふつふつ沸騰するような感じがするけど、痛くて我慢できないほどではない。僕は大人しく志麻さんの施術を受けていた。2回目のブリーチも終わり、いったんシャワーでブリーチ剤を洗い流すことになった。
「少し染みるかも」
「……はい」
ちく、と頭の表面が痛む。ちょっとひりひりするくらいだから、我慢できそうだ。相良さんのお願いだもの。叶えてあげたい。そして、僕も髪の毛の色を変えてみたい。きっと、自分の中でも何かが変わると思うから。
水を拭き取られ、いよいよカラーを入れる段階になった。相良さんは仕事の電話で外に出ていってしまった。心細い気はするが、仕事の都合なら仕方ない。相良さんもいつでも暇ではないのだ。たまには、自分1人で対処する力も必要だ。
「雛瀬くんは、お仕事は何をしてるの?」
ブリーチをしてくれているときも、お喋りをしてくれた志麻さん。ほんの1時間で距離が縮まった気がする。向こうにとってはただの接客かもしれないけど、僕にとってはとてもレアなことで。僕はすっかり、志麻さんに心を開いていた。
「電話相談員をしています」
「へぇ。どんな仕事なの?」
ピンク色のカラー剤を塗りたくりながら、志麻さんが聞く。僕は、相談支援についての簡単な説明をした。
「すごく素敵な仕事だね」
「ありがとうございます」
志麻さんが笑顔で言うから、僕もつられて笑みが零れる。
「よし。これで後はしばらく放置して髪の毛に色が入るのを待つだけだよ」
鏡で自分の髪の毛を見る。すごくピンクだ……ほんとに、これが自分の髪なの?
「あえて濃く入れてるから、1週間くらいピンクシャンプーをしたら色が落ち着いてくるよ」
志麻さんは僕のことを鏡越しに見つめて説明してくれる。
「ピンクシャンプー?」
聞いたことの無い言葉に反応すると、志麻さんが「これだよ」と、コロコロが付いた作業台の上に置いてある入れ物を見せてくれる。
「……かわいい」
僕は思わずそうもらした。ピンクの液体が透明な瓶型の入れ物になみなみと入っている。
ともだちにシェアしよう!