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第125話

 2人して寝転んでいると、相良さんの目が少し重くなってきたらしい。うつらうつらと目を瞬かせている。眠いのかな……。僕は相良さんの髪をさわさわと撫でる。僕の行動に驚いたのか相良さんはびくっと体を固くさせた。 「寝ても大丈夫ですよ」 「……ごめんね。ちょっと、今日は疲れたみたいだ」  相良さんの瞼が下に降りていく。睫毛長くて綺麗。僕はその寝顔に見とれていた。すうすうと寝息を立て始めた相良さんを見て、僕も布団を引き寄せる。すぐ隣にいる確かな温もり。それが僕を幸せな気持ちにしてくれる。  ごそ、と後ろで相良さんの体が動いて僕を抱きしめてくれる。寝ぼけてるんだろうけど、それでも嬉しさは変わらなくて。 「好きーー」  その後に僕の名前が続くことを疑わなかったから。僕は相良さんの言葉を聞いて、時が止まったような感覚に陥った。 「ちはや」  どくん、と心臓の音が不気味に高鳴る。ちはやって誰。たしか前に、相良さんの家でワインを飲みすぎてしまったときに相良さんが涙を流しながら「ちはや」と呟いていた。本人は気づいてなかったみたいだから、触れなかったけど。  僕の身体は嫌な熱に襲われる。誰、誰なの。相良さんの寝顔がとても気持ちよさそうだから。相良さんが呼んだのは、僕の名前じゃないんだ。その事実が胸に重くのしかかる。いや、言い間違えちゃったのかもしれない。相良さん少し抜けてるところがあるから。でもーー。  僕はその晩全然寝付けなくて。気づいたら窓の外が明るみ始めていた。相良さんの言葉1つでこんなにも揺さぶられる。このときばかりは、それを恨めしく思った。だって、当の本人はぐっすり眠っているんだもの。僕はもやもやした気持ちを胸に朝を迎えてしまった。僕のことを抱きしめる相良さんの腕をひし、と抱きしめながら。聞き間違いだと思いたくて。僕はこのことを胸の奥に閉まっておこうと決心した。自分にとって得がないことなら、見て見ぬふりをすることも必要なのだと思ったから。

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