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第130話
職場に着いてからすぐに相良さんにメッセージを送った。そしたら、ものの数秒で返事が返ってきたから僕は持っていたスマホを落としそうになった。
『仕事がんばって』
メッセージのあとには、応援団っぽい格好をしたうさぎが、えいえいおー! と手を上げているスタンプが添えられていた。僕は、ふ、と笑ってしまう。それを金森さんに見られていたみたいで、彼女は僕のスマホを覗き込んできた。
「あー! これ最近流行ってますよね」
金森さん、今日は髪の毛を下ろしている。僕は「そうなの?」と金森さんを見た。
「女子高校生とかの間で流行ってるって聞きました。もしかして雛瀬さん……JKと連絡でも取ってるんですか〜?」
にやにやと笑う金森さん。僕は「違うよ!」と慌てて手を振った。本気にされたら困る。
「雛瀬先輩。冗談に決まってるじゃないですか〜。それともあれですか、私には知られたくない相手ってことですか?」
僕は、う、と言葉につまる。相良さんのことはなるべく他の人には教えたくない。なんていうか、その。僕だけが知っていたいから。大切なものは見せびらかさずに隠しておきたいから。金森さんは何かを察したのかその話は終わりにしてくれた。かわりにぺこりと頭を下げてきた。
「この間のクッキー美味しかったです。食べるのもったいないくらいかわいくて……ありがとうございました」
「よかった」
僕は安堵する。金森さんは僕のことをしばらく眺めたあとで、こっそりと耳打ちした。
「雛瀬先輩……。今度仕事終わりにでも飲みに行きませんか? 仕事のこととかプライベートのこととかお話したいなって思って。どうでしょうか?」
金森さんの乙女モードというのだろうか。目をきゅるるんとさせて人差し指同士を合わせている。うん。これ、僕の恋愛対象が女性だったら1発で落ちてる。
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