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第131話

「ほんと? 嬉しいよ」  たぶん、金森さんは僕のことを恋愛対象としては見ていないだろうから。はじめてできた友達だと僕は思っている。金森さんはどう思ってるかわからないけど、お誘いには乗りたかった。僕は他の男性社員にバレないように小声で返事をする。すると、金森さんは華が咲いたように笑うから。職場にいる社員の全員が金森さんに視線を向ける。ああ、これじゃ結局僕も注目されてしまう。  金森さんがスキップしそうなくらい喜んで自分のデスクに戻って行ったのを見て、悪い気はしなかった。そのあとは、休憩時間にカフェに売ってあるスコーンを食べて一休みして。黙々と仕事をこなした。何気ないいつも通りの日常。それにイレギュラーを入れてくるのは相良さんで。僕はそれを密かに楽しみにしている自分に驚いている。けれど、納得もしていた。今までの人生には色がなかったから。相良さんから与えられる色や匂いや音が新鮮で、嬉しくてたまらないのだ。 『仕事終わったら迎えに行ってもいい?』  仕事が終わる30分前に相良さんから連絡があった。僕は「ありがとうございます」と返事をする。すると、すぐさま 『じゃあ18時にビルの下で』  と返事が返ってくる。僕はそのメッセージを数秒眺めてから仕事に戻った。ちょっと疲れてきたけど、このあと相良さんと会えるのなら頑張れる。そう思って、相談者からの電話に出た。

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