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第144話 ー

「李子くん。おかえり」    ぎゅーっ。っていう、効果音が聞こえてきそうなほど、抱きしめられる。相良さんの家の、玄関先。  僕は、毎週シフトが入っていない日ーーつまりは、お休みの日の前日に相良さんの家に来るのが習慣になっていた。  僕と相良さんがmateになって半年が経過していた。半年って、すっごく早い。 「先にシャワー浴びてきなよ。お風呂湧いてるから」 「ありがとうございます。じゃあ、そうします」  もうすっかり慣れた相良さんの家の構造。一直線に浴室に向かう。そこには、僕の寝巻きとバスタオルが用意されている。相良さんが、いつのまにか勝手に買ってきていたものだ。もちろん、サイズはぴったり。 「……あ」  髪の毛を洗い流す。鏡に映るぴんくいろ。僕の髪の毛。1か月前に、相良さんにまた「be lol」の美容院に連れて行ってもらった。  そのとき志麻さんは、何も言ってこなかった。ただただ、美容院の副店長として僕に接しているように見えた。  でもね。僕、気づいちゃったんだ。お会計のとき、ちらって振り返ったらさ。志麻さん。すごく、顔が強ばってた。何かに耐えてるみたいな、そんな顔。  相良さんはもうそのときはお店を出ていたから知らなかったと思う。  あんな顔されたら、僕はどうしたらいいんだろう。自分から聞けばよかったんだろうか。ううん、そんなことしたら自分から嫌な穴に足を突っ込むようなものだ。  聞かない方がいいことだって、きっとある。

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