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第180話
ベッドの隣に置かれたサイドチェスト。その2段目。仕掛け板が入っているところを、静かに持ち上げる。
「……」
僕の想像していたものはなかった。
その代わりに、青があった。
僕とおそろい。水族館で買った、あざらしのキーホルダー。相良さんが青で、僕がピンクの。
ーー相良さん。
僕は心の中で何度も彼の名前を呼んだ。
今はもう、僕だけの相良さんってことなのかな。以前あった写真立てはなくなっていて。それが、嬉しかったんだ。相良さんは、千隼という人でなく僕を選んでくれたんだ。そう思うと、たまらなくて、たまらなくて。
「My little boy《わるいこ》」
いい意味ではないのだということだけが、わかった。
ずくん、と。心臓が震え上がった。鋭い刃で刺されているかのような痛み。後ろを振り向いた。息が上がる。はあはあと、怖いから。怖くて怖くて、たまらないから。
「さ、がら……さ、」
僕はうまく息ができない。呼吸を忘れた魚みたいに口をぱくぱく開ける。
ゆったりとした足つきで近づいてくる相良さんが身に纏う空気が、重い。鉛みたい。
「李子」
大好きな声なのに、今は無機質で。感情のこもっていない瞳が僕を見る。まるで、穢らわしいものを見るかのような目で。
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