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第230話
「かわいそうだね」
「ッ」
首を右に傾けて、僕を見る志麻さんの目。詰めるような視線に、僕は目を逸らす。耐えられなかった。そんな、選択を間違えた人を見るような目で見られたくなかった。
「たくさんかわいがってもらったんだね」
志麻さんが自分の頬に手を押し付けて椅子の肘置きに肘をつける。しげしげと僕を見ている。いたたまれなくなって、僕は今すぐにでもその場から逃げ出したくなった。
僕が何も言わないで俯いていると、テーブルの向こうから静かなため息が落ちるのが聞こえてきた。
「言ったでしょう。『そんなに甘やかされてたら、いつか立てなくなるよ』って」
「……」
いつか言われた志麻さんの言葉が蘇る。その通りだ。僕は甘やかされすぎてしまった。1人ではなんにもできなくなってしまった。それが嬉しくて、悔しくて、幸せだと思っていた。
「似てるんだ」
もう、その先の答えはわかっている。
「雛瀬くんは、似てるんだ。千隼に」
「っ」
その名前、その一言が僕の脳天を貫いた。全身が細く震える。ああ、言われてしまった。この世で一番聞きたくなかったことを。まっすぐ。それは僕の頭をくらくらさせるには充分な威力を持っていた。
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