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第270話
「うっ」
口を開いて彼を半分ほど飲み込んだところで、相良さんの腰が動き始めた。喉奥まで突っ込まれて、呼吸が苦しくなる。雄そのもののような行為に無性に興奮してしまう。苦しいのに、気持ちいい。
ぐ、と一際大きくなるとそれは僕の口の中で弾けた。どぷどぷと溢れているのを舌の上で感じ、僕の頭はくらくらした。ゆっくりと、引き抜かれる。
「ごめんね。苦しかったでしょ」
労わるような言葉に、僕は安心してしまう。
「すごく良かった」
それを聞いて僕の胸は舞い上がりそうだ。
「お口、お掃除しないとね」
僕は相良さんに抱っこされて洗面所の前に立った。
洗面所の前には鏡があるんだけど……。その鏡にうつる自分を見てどきっとした。だって、こんなに……。上半身から下半身まで、赤い跡が付けられている。普段、彼はこういうことをしないからつい嬉しくなってしまう。隣に立つ彼の顔を見上げた。彼は少し照れくさそうにして笑う。
「べってして」
言われた通りに口を開く。洗面台の中に、白い液体が流れていった。
「うがいもしておこうか」
コップに水を入れて手渡してくれる。僕は何回か口をゆすいだ。
「俺の印、気に入ってくれた?」
鏡の中の僕を見て、相良さんはその赤い跡をなぞっていく。
「はい……すごく、うれしいです」
そう言ったら、相良さんは僕なんかよりずっとにっこりする。
「李子のこと、愛してる」
「……僕もです」
鏡の前でもう一度キス。
鏡の中にうつる自分は幸福そうな表情をしていた。
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