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第272話

「ごめんね。せっかくできた友達と離れ離れにしちゃって」  少し辛そうな顔の相良さんを見て、僕はふるふると首を横に振る。 「なんか、嬉しくて……こうやって僕のためにプレゼントしてくれたりとか、今までそういう人と出会ってこなかったから……」  職場では、最終出勤日に金森さんからキーケースをもらった。泣きながら、渡してくれた。「新居の鍵を入れてくださいね」と微笑みながら。涙目で、僕のことを応援してくれた。そのときも、じわって涙が出てきてしまって我慢するのが大変だった。 「少し落ち着いた?」 「はい……大丈夫です」  相良さんに背中をとんとん撫でられて、嗚咽が引っ込んだ。  空港のアナウンスが聞こえた。僕たちが乗る飛行機の案内だった。 「やば。ちょっと走るかも……ついてこれる?」 「はい。頑張ります」  あ、あの日と一緒。  相良さんと初めて出会った雨の日。ビジネスホテルまで走って向かった日。  相良さんが差し出してくれる手のひらに、自分の手のひらを重ねて。1歩、前に踏み出した。  僕たちの未来に向かって、小さな1歩でもいい。確かな道を歩むために。  僕らを待つきらきら光る未来に向かって、歩み出した。

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