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第273話 ひら、ひらり。相良優希side
一目見たとき、天使が舞い降りたんだと思った。
雨でスーツを濡らした天使は、俺の近くの席にちょこんと座った。町の丘。俺の行きつけのバー。
気になった。どんなふうに、わらうんだろう。どんな声で鳴くんだろう。
彼が声を発した瞬間。頭の中にするりと入り込んだ心地いい声音に、自分の乾いた心が潤うのを感じた。
ひら、ひらり。
天使の舞い降りた音だーーと、俺は思った。
その天使は俺に向けて笑いかけた。
ああ、だめだ。
もう人を好きにならないと誓ったはずなのに。
この子となら、こんな俺でも、救ってくれるんじゃないかって。
天使は俺の罪を許してくれるかなって。俺の毒を許してくれるかなって。
そう、思ったんだ。
【完】
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