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第275話 ①

 よだれが垂れている。  枕の上。乾いた白い線。  俺はそれを、静かに上からなぞる。  これをした本人は、俺の隣ですぴすぴと眠っている。身体をまん丸に丸めてさ。俺の横たわっている布団のほうに、身体を引き寄せてくるんだ。  いつ見ても、君はきれいだ。  俺がかわいいと言うと、君はいつも逃げる。それをまあ、俺がダッシュで捕獲しに行くんだけど。逃げられないってわかってて逃げてるのが、ほんとに……。  そこまで考えてから、俺は思考がストップした。だって、李子くんの身体がもぞもぞ動いて俺の腕の中にすっぽりおさまるんだもの。動揺しないわけがない。  無意識? わざと?  寝ぼけているのか、「うー、うう」って掠れ声を上げながら俺の中にうずくまる。李子くんの身体はほんとうに小さい。160センチもないんじゃないかな。顔だってものすごく童顔だ。とても、28歳には見えない。  李子くんの目が、薄らと開く。まだ焦点の合わない瞳が俺を見上げる。だめだよ。そんな顔しちゃ。襲われたいのかな? 俺の加虐心をくすぐられて、いてもたってもいられなくなる。弱いんだ。俺、そういうものに。  鈍感な君で遊ぶのは、楽しいから。 「相良さ……ん。おはよ、ございます」  途切れ途切れ。舌足らず。意識してないんだろうけど、鼻にかかるような甘ったるい声。  こんな無自覚な男の子がこの世にいていいんだろうか。  俺はたびたびそう思う。 「李子くん。おはよう」  額に軽く唇を押し付ける。あ、李子くん嬉しそう。頬を緩ませて俺をじーっと見つめてくる。だから、そんな顔しちゃだめだって。これ、他の男の前でやってたら即お仕置コースだな。なんて思いながら、幸福な朝を迎えた。

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