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第283話 もっと俺にも尽くさせて?
「ガーリックチキンも焼き加減が絶妙だ。俺のためにこんがりとよく焼いてくれたの? さすが李子。俺の好みもよくわかってる」
相良さんのために工夫したポイントを全部当ててくれて僕はもう身体中が歓喜してしまう。食事中、相良さんは仕事の話をよくしてくれるようになった。
「ミラコッタの職場は日本でもグローバルな人材が多かったけど、やっぱり本社はすごい。シアトルは白人の割合が多い地域と聞いていたけど、職場はアジア系やヒスパニック系も多いみたいだ。転勤して1ヶ月だけど周りの人達のサポートもあって自然と雑談にも溶け込めるし働きがいがあるよ」
僕はそんな相良さんのお仕事事情を聞くのが毎日の楽しみになっていた。もしかしたら相良さんは日本の風土よりアメリカの開放的な風土が合う人なのかもしれないなと最近思うようになった。日本にいた頃の相良さんは色々なことができるがゆえに、周りの人に気を遣いながら過ごしていたように思う。それがアメリカの本社に転勤したら、気を背負いすぎずにカジュアルに働いているように見えた。
「李子は? 仕事はどう?」
「仕事は……そうですね。アメリカと日本の時差を逆手にとってテレワークをするっていう会社の方針だったんですけど、正直なところ僕に仕事があまり振られてなくて。転勤したてで配慮してもらっているのもわかるんですが、日本にいた頃が仕事が多忙すぎて今は物足りない感じがします」
僕はもう自分の本心を相良さんに隠すことはしなくなった。相良さんを信頼しているからこそ自分の気持ちに素直になりたかった。そんな僕の話を相良さんは相槌を打ちながら静かに聞いてくれる。
「だから最近は心理学の勉強に取り組んでいて、もっと自分の知識を増やしたいなと思っています」
僕なりの最大限の意思表明だった。シアトルに来てからは家賃も家具も食費も全て相良さんが出してくれている。初めは僕も少しでも割り勘に近づけるくらいお金を払いたかったが、相良さんは
「大丈夫。俺が部屋も家具も食べたいものも選んだんだから李子は負担に思わなくていいんだよ。こうしてシアトルに一緒についてきてくれたことが1番の幸せなんだ。李子がこんなに尽くしてくれるんだ。もっと俺にも尽くさせて?」
と甘く説き伏せられてしまった。相良さんはもうずっと僕に尽くしてくれているのにな……。甘々すぎる相良さんに甘えん坊してしまうとほんとにいつか1人で立てなくなりそうだ。志麻さんが言っていたように。だから僕はせめて家事や掃除、食事の支度は自分からやりたいと伝えてやらせてもらっている。相良さんはそのときの僕の申し出も静かに笑って受け入れてくれた。
「ふうん。李子はほんとにいい子だね。よしよし」
ぽすぽす、と頭を優しく撫でてくれた手つきがあたたかくて僕は自分から相良さんの大きな手のひらに頭をぐりぐりと押し付けた。その直後に唇を奪われ、お姫様抱っこされて寝室に運ばれていったのは入居日初日のこと。その日の夜は鳴いてもやめてくれないくらい甘く抱かれた。言葉以上に行動で示してくれる相良さんの愛情深いところも大好きでたまらない。僕はもうこの人がいないと生きていけないかもしれないと感じた。
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