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第289話 貴方は僕の全てになった
「そんな……僕はただ栄養満点の食卓を相良さんと囲むのが幸せだから」
本心だった。シアトルに来てこうして更に2人の距離が縮まった気がする。異国の地で暮らすことが少し不安だったけど、この人となら大丈夫と確信していた。
「本当に優しいね」
相良さんが僕の手に自身の手のひらを重ねてくる。その温もりを離したくなくて僕はぎゅっとその手を握りしめた。
「美味しかったね」
「はい。すごく美味しくて。特にローズマリーの牛フィレが」
「わかる。俺もそれが1番美味しかった」
ディナーを終えて客船のロビーに出ると相良さんがコンシェルジュと何やら話をしていた。鍵を受け取ってきた相良さんの後ろをくっついて歩く。船内にあるエレベーターに乗り込むらしい。僕ら2人だけが乗り込み3階へと向かう。
「ん」
2人きりなのをいいことに相良さんが僕に口付けを落とした。はむ、はむと唇を食まれる。僕は相良さんの腕の中でキスに甘んじていた。チン、とエレベーターのドアが開いたので速やかに降りると手を引かれて部屋の中へと入れられた。玄関先で靴を脱いでから壁際に背中を押さえつけられる。ちゅ、ちゅと重ねるだけのキスなのに僕の身体は疼き始めていた。おもむろに相良さんの手のひらが僕の足の間を掴む。
「キスだけでこんなに濡らしてるの?」
「え」
見れば僕のものはスーツの布地を押し上げていて先端が少し濡れている。先端の辺りをくるくると円を描くように撫でられて先走りが止まらなくなる。しまいにはつう、と相良さんの指先と繋がり銀の糸を引いていた。
かぁあっと頬を紅く染めると相良さんが静かに微笑んで僕の手のひらを握る。腰に手を回されベッドにぽすんと座らされそのままシーツに縫いつけられる。
「いつシても李子は初々しいよ」
「なっ……」
冷静な分析に更に身体がふつふつと熱くなる。行為が始まりそうな予感がしたので僕はそれに流されずに1度身体を起こした。相良さんは頭にはてなを浮かべて僕を見つめている。からからになった喉の奥から言葉を振り絞った。
「僕、相良さんに伝えたいことがあるんです」
相良さんは一呼吸間を持たせてから「うん」と目元を緩ませた。僕はシアトルに来てからずっと思っていたことを精一杯まっすぐに伝える。
「僕、相良さんとシアトルに来て同棲してから毎日がすごく楽しくてあたたかくて、幸せです。それと……日本にいた頃よりもplayが優しくてそれがすごく嬉しくて……。相良さんは前に小さな頃に親から虐待を受けていたから人を愛するときには痛みを与えてしまうと教えてくれました。僕は痛みを伴うplayはもうしたくありません。だって僕は──」
早口になるのを躊躇いながらも一つ一つの言葉に気持ちを乗せて伝える。相良さんは真剣な瞳で黙って僕の話を聞き続けてくれている。
「僕は相良さんのmateだから。このCollarがその印です。一生貴方の傍を離れないと誓ったあの日から──貴方は僕の全てになった」
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