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第六話

   それからだ。冬が終わっても、その日から慶斗が俺を抱くことはなかった。  救急車で運ばれたが、うなじの怪我を手当てしてもらっただけだ。それよりもあらゆるところに鬱血痕が残されている身体を診察されるほうが恥ずかしかった。  理由もないまま、気まずい時間が流れて数年経つ。  結婚しようとプロボーズされたとき、うれしかった。俯いて「はい」とだけ答えた。  慶斗の表情が不満そうな顔だったのは覚えている。運命と感じたのは自分だけだったのかなと、熱にうかれた若き恋に反省した。もちろん初夜はなかった。  それでも幸せだった。  慶斗の番になった。だから一生愛したい。  そういうことで、離婚は考えていない。  たまに優しい。そして怖い。  でも浮気とかって……。  それはどうなのだろう。  すれ違わないように共有アプリをダウンロードしたけど、在宅勤務なので打つ日がない。繫忙期は入力してるけれども、慶斗のスケジュールのほうがぎっちり埋まっている。  自分だけがスカスカの予定に申し訳ないし、ヒートと入力することすら恥ずかしい。構われなかったら悲しいし、すでにすれ違っている気がしてならない。  そういうわけだから、最近は不順だとうそぶいて入力をさぼっている。ウブでかわいい学生時代の自分はいずこともなく消え去った。 「ヒートか……」  茶色くなったイカ大根を鍋から取り出し、琺瑯の容器にうつした。一度蒸してあるので、味がよく染みている。  昨日から俺は休みを取っている。  なにをしようとか、特に予定はない。ヒートがくるだけだ。もうすでに身体があつい。  ウォークインクローゼットは衣類でいっぱいになり、巣ごもり用にぎゅうぎゅうになっている。慶斗のシャツ、ネクタイ、スーツ、それに下着まである。抑制剤を飲んで中に飛び込んで、大好きな番いの匂いに囲まれて過ごすのだ。それがいまの楽しみで、唯一のストレス発散方法だ。すごぶる気持ちがよい。  お腹が空いたら冷蔵庫に行けばいい。朝から非常食の作り置きをして、保存容器が所狭しと並んでいる。  エプロンを外す。  半勃ちのペニスが下着を濡らしている。  寝室に足を運んで、半畳ほどの広さに足を踏み入れる。我慢できずに足元の服を手に取って顔にあてる。インナーに手をかけた瞬間、ずくんと灼けるように疼く。  キタ。  ジワジワとその熱は広がり、頭が朦朧としてくる。薬を探そうとしたが、もうこの頭じゃ無理だ。四方八方、慶斗の匂いがするところに飛び込む。  好き。頭がおかしいぐらい大好き。  縋りつくように細い糸が身体にからむ。  床下に隠しておいたバイブを取り出す。温度調整できて、十段階に振動がいじれる優れものだ。後孔はすでに濡れているが、隠しておいたローションを垂らした。体液にぬりつけながらゆっくりと挿入する。  ぷっくりとした突起が襞を刺激しながら奥へ奥へと沈めていく。振動はまだ。もっと深いところにいれてから。 「…… ケイ、ケイ、すき、はぁ……ぁ… 、ん」  冷えたバイブに熱がともる。ケイのものはこれよりもっと長くて硬い。太くて、重量感があって、ごりごり奥にあたって気持ちいい。 「……んっ、ふぅ、はぁぁ」  さすがベストセラー一位の電動バイブ。  内緒で購入したかいがあった。 「あ、あ、あ、あああー……」  スイッチを入れ、ぷっくりと膨らんだところに当たる。ぴったりと太ももを閉じて、スイッチを押した。 「あああ……あ、あ、あー……」  ぶるぶると全身がゆすぶられる。強弱を変えて、振動する部分を上下に動かしてこすりつける。腰が動いて、出し入れが激しくなってしまう。  足りない。まだたりない。ほしい。片手で乳首をいじり、ケイのシャツに顔をうずめた。 「んふぅ、いい匂い……」  洗ってないシャツをもうちょっと多く隠しておいてよかった。  そのとき、カタンという音が響いた。でもそれどころではない。バイブで意識も溶かされて、自分は尻を振りながら絶頂を迎えようとしていた。  そのときだった。昇りつめようとして、掴んでいたバイブを取られた。  低い声が落ちた。

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