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第五話

 秋、発情期はすぐにやってくる。 『ヒートがきたよ』とメールを送ると、慶斗は言葉どおりに来た。黒のVネックにジーパンという姿で、額にびっしりと汗が浮かび上がる。  怖かった。  抑制剤なしで、ヒートを過ごすなんて初めてで、セックスをしたことがない俺にとっては恐怖そのものだった。  汗と体液がべっとりと肌にまとわりつく。  番いになるとどうなるんだっけ……。  もうヒートに振り回されなくなるのだろうか……。  慶斗のものになる……。  まとまらない思考にぐるぐると振り回される。 「だいじょうぶか?」  その声にはっとなって、一糸纏わぬ姿で布団にもぐって隠れた。ぶるぶると震えた。むりだ。こんなのできない。  恥ずかしい。みないで。こないで。  そう願いながらも、頭が滾って狂ったようにおかしくなる。後孔しとどなく体液が垂れて、きゅうと締まってなにかを求めてしまう。 「怖くないから」 「んっ」 「あまい香りがする」  慶斗は布団を剥がし、熱い吐息が顔にかかった。 「……ひあ、あ、あ、あ」  ぶわりと鼻の粘膜を刺激するような桃の匂いが立ちこめた。ぐにゃりと視界が揺れる。雄の匂い。互いの体臭が混ざり合う。 「愛してる」 「んっ、けいとお……」  太い頸にしがみつくと、唇に軽いキスをされた。汗で濡れた肌が触れるごとに妬けるように熱く、こりこりと尖った乳首が擦れた。自分自身の欲情を煽りながら、慶斗の服を脱がす。首筋にしゃぶりつく自分がいた。互いの息が弾んでいる。慶斗の膝にのって、なんども口づけを交わした。  麦茶の氷がからんと溶ける音が重なる。  お互いが初めてだった。  無我夢中で唇や指でなぞるように触られ、乳首を引っ張られ、押し潰された。眩暈がしそうになり窄めた口唇でそそりたつ剛直を吸う。顎が外れそうになりながらも、舌で筋を辿りながら愛撫する。 「ごめん、持ちそうにない」 「えっ……」  ひっくり返されて、うつ伏せにされた。上から押さえつけられて、抵抗すらできない。 「ごめん」  顔がみれない。不安が増す。でも期待してしまう。 「あう、あ。あああああっ」  尻を鷲掴みされ、亀頭がくすんだ後孔をひろげた。そのままふとい雄が挿入された。前後に揺さぶられ、次第に動きが速くなる。抽送を止めて押しつけた腰をぐりぐりと捩じりだされた。恥芯を愛撫され、俺は姿勢を保てずにガクガクと全身を反り返らせて痙攣した。 「アッ、あ、……や、あッ」 「わるい。とまらない」 「……あああああン……や、や……へん、へんになっちゃうよお……」  慶斗が腰を突きあげるたび、切羽つまった声をあげながらのけぞった。収縮する自分の胎で白い欲情を浴び続け、大きな快感から逃げることもできず、涙を流した。  そのあとから記憶にない。覚えているのは咬まれた痛みと、なんども奥を突かれ、甘く切なげにすすり泣く自分だった。  悲鳴なんじゃないかってぐらいの声が出た。禁断症状に襲われたように、何度も精を放った。自分の片想いでしかない恋に終止符を打てた気分だった。  うなじに残された痛みで目覚めるとそこは病院だった。 

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