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後日談 溺愛オメガは運命を織りなす(2)
昨日だって、横になった瞬間に俺は眠りに吸いこまれてしまった。とろとろっと深い眠りに落ちて、はっと目を覚ましたときには遅かった。唇をぼんやりと開けてぐっすりと昼まで寝ていた。どうしてこうも自分は過去から学ばないのだろう。
「き、昨日寝ちゃったし……」
「昨日は徹夜明けだったから疲れていたんだろう。たっぷり寝たならいいじゃないか。おかげで俺も疲れがとれた」
「う、うん……」
「それでも風呂にはいりすぎだ」
「そ、そうかな……」
「そうだ」
大きな熊みたいな掌でがっちりと手をにぎられる。しっかりと手をつながれて、虎の尾を踏むような思いで恐る恐る視線を上げるとすごい顔をしていた。
はっとして口を開こうとしたが、喋るひまもなく返事が返ってきた。
「怒ってない」
「……いや、怒ってるよ」
「怒ってない。ただ、いまので五回目だ」
「さ、三回目じゃないかな?」
「いや、間違いない。五回目だ」
じとっ……とした視線が送られる。こんなにもむくれた夫の顔は初めて見たような気がする。たしかにずっと温泉につかっている。
食べて、温泉にはいって、観光して、温泉に行って、ご飯を食べて、食べすぎて寝て、また温泉に首までつかって目をつむる……を繰り返していた。もちろん部屋の風呂も三回ほど堪能しているので、はいり過ぎという慶斗の言葉は過言ではない。ふやけてふにゃふにゃで思考がおかしくなったのは俺か。
「次は部屋の風呂か、貸切風呂にするぞ」
「……えっ」
禁止じゃなくて、そこなのか。
きょとんとした目でみると、真剣な眼差しを向けられた。
「大浴場は危険が多すぎる」
「そんな子どもじゃあるまいし、滑って転んだりしないよ。さっきなんて誰もいなかったからふたりでゆっくり入れた……」
「……そういうところが心配なんだ」
むすっとまた膨らませた頰が大きくなった。
なんだ、なんなんだ……。
番いのいないバースは別館のセキュリティが厳重なところも選べる。すでに番いがいる身としては腑に落ちない。
抜けてばかりの俺と一緒にいては緊張感が抜けない、そういうことだろうか。
でも、確かに俺は抜けている。
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