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後日談 溺愛オメガは運命を織りなす(4)

「ち、ちがうちがう。初めてで緊張するんだよ。ほら、エレベーターがやっと来たよ」  開いた扉に、大きな手を引っ張って滑り込む。はやく話題を変えなければ。また拗らせてしまってはたまったもんじゃない。気まずい沈黙に、俺は言葉を探した。あれこれと考えていると、エレベーターの中には銀髪と黒髪の男がふたりいることに気づく。ふわりと柑橘系の香りがして、視線を落とすと指を絡めて互いの手を握っている。  ……恋人同士かな。  ぺこっと会釈すると、黒髪の男が目を細めて挨拶を返した。ちらっと見えたうなじには咬み痕がついていた。じろじろと見るわけにはいかず、真っ赤になって俯いてしまう。  ……な、なんでこんなに静かなんだろう。  高層階まで数秒なのに、どうしてか気まずい空気が漂う。隅で縮こまっていると、慶斗が手を引っ張った。 「ついたぞ」 「あっ」  ポンと目的階について、慶斗に追い出されるようにエレベーターから連れ出された。閉じていく扉に視線を送るとふたりはキスをしていた。 「……ぼうっとしていると湯あたりするぞ」 「そ、そんなすぐにしないよ」  一番奥にある部屋に向かう。階ごとに部屋はひとつしかない。ずんずんと前を歩く夫に声をかけてみる。 「さっきの人、銀髪だったね」 「……ああ」 「背が高くて、芸能人みたいだった。二人とも仲良さそうだったね」  たわいもない会話のつもりが、どうしてか慶斗の機嫌は悪くなっている気がした。振り返りもせずに、つないだ手をぐいぐいと引っ張るように歩をすすめている。 「……そうだな」  不承不承相槌を打って、慶斗はぴたりと立ち止まった。  カード式のロックを解除して扉が開かれる。すぐに腕を引かれた。冷暖房の完備した部屋に押し込められると思いきや、勢いよく閉じた扉に俺の体を押さえつけ、慶斗は壁に両手をついた。よく冷えた扉に背中がひやりとあたって、深いため息を落とされた。 「……どうしておまえは誰にでもそうなんだ」 「そう?」 「その人懐っこさは危険だ」 「な、なにそれ」  怒っている。  ……これは滅茶苦茶怒っている声だ。 「不意に笑いかけるな。自覚しろ」 「……じ、自覚ってなんだよ。手を繋いでいたし、同じオメガかなって思ったんだよ」 「……あの黒髪の男のバースはベータだ。匂いでわかる。相手の男はアルファで、匂いべったりついていたけどな」 「そう、なんだ……」 「あれは男のほうがえげつなく執着していると思うぞ。ずっと俺を警戒してた」 「へ、へぇ……」  咬みあと三つつけたアルファがなにを言っているだろう……とツッコミを入れると怒られそうなのでそこはぐっと黙っておく。いや、三つも咬み痕つけているオメガといるアルファを警戒するのはごもっともだと思う。 「たっく、心配しかねぇな」 「へ?」 「……浴衣、かわいすぎるんだよ」 「んんっ」  途端、キスされた。  逃げることもできず、やにわに口づけが深くなる。 「もう我慢できない」 「んっ、……ぁ。……けい、とお」  顎をつかまれて、舌を吸われた。舌の先に力をこめられて上顎を舐められる。浴衣の隙間から鎖骨が浮き出ている。太くて長い骨に、ほんのりと熱が増していく。つうと糸を引いて、顔を離され、懇願するような眼差しを向けられた。 「したい。だめか?」  そう言いつつ、肩に指を滑り込ませ、はだけさせている。 「だ、だめじゃない……」  こくりと頷くと、横抱きに抱き上げられた。 「なら、場所を移動しようか」 「あっ……こらっ」  慶斗の口元が上がる。いじわるな顔に戻っている。スリッパが足先からずり落ちた。 「昨日の夜、すぐに寝たな」 「い、いつものくせで……」 「いやみか」 「ち、ちがっ」 「くそっ。手を出すつもりなかったのに」  十畳ほどの和モダンの部屋に足を踏み入れ、クッションの上に横にされる。すやすやと眠った場所なのに、これから始まることを想像するとさざ波のように胸がざわついてしまう。  ちゅっと音を立てて唇が重なり、前髪をあげられ、おでこにもキスを落とされる。 「浴衣は反則だ。かわいすぎるぞ」 「……はずかしい」 「かわいいからいいんだ」 「あま、り……。……み、みるなよ」  糸目もそばかすもコンプレックスなのに、間近で眺められると気恥ずかしい。 「だめだ。これは俺のそばかすでもあるんだから」 「……ばか」 「それはごもっとも」  点々と浮いたそばかすに厚ぼったい唇が触れて、微笑がひろがる。そのたびにキスし返す。肉厚のぽってりとした下唇を噛むと、苦笑交じりに上唇を嚙まれた。そんなあまい接吻を繰り返す。やわらかな音が部屋に幾度も響きわたる。  くすぐったいようなこそばゆい口づけ。顔は恐ろしいほど強面なのに、触れるキスはとってもやさしいと口にしたら、たぶんまた拗ねられるかもしれない。 「匂い、俺も負けないかもな」 「あっ……ッ」  あっさりと浴衣は脱がされた。帯はするすると腰を辿ってぽたりと床に滑り落ち、かけえりが尖った乳首をこする。 「一人で大浴場になんか行かせるわけないだろ。こんなあまい匂いさせて、裸にしたらすぐに襲われるに決まってる」 「お、大袈裟だよ……んっ」  さらけ出された肌にキスを落とされた。 「気にするだろ。番いのおまえを一生大事にするって決めているんだ。だれの目にも触れさせたくない」  鎖骨を甘噛みされ、ぞくっと痛みに似た快感が走った。 「んあっ……、ッ…」 「部屋に閉じ込めたくなるのを我慢していたのに、おまえはひょいひょい出ていこうとするしな」 「……っ、そんな」  冷えた指先が尖った乳首につんと触れ、きゅうっと捻るようにつねられて硬度が増す。 「こんなにいやらしいのに、色気より食い気だしな」 「だって、料理、お、おにく、おいしかったし。……あぅ」  乳輪ごと押しつぶして、弾力を遊ぶように先端をころころと転がされる。うなじを舐める音が鼓膜をかすめ、じわじわと熱が点る。足先が痺れてきた。三つある咬み痕の窪みを一つ一つ舐め上げられ、香りがひとつになる。火照った身体は逞しい肉体にくるまれ、肌に温もりが与えられる。番いからのほどこしを受けるように、触れられるたび深い快感に引きこまれる。 「食べすぎだ。こんどは俺がいただく」  慶斗の唇が、鼻先、頬、うなじ、鎖骨、胸に唇が下へ下へと押しつけられる。

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