11 / 17

第9話

「堂島さんっ! こっち、こっち!」 どこからか、よく通る陽気な声が降ってきた。見ると、中央近くのブースで一人の男が立ち、大きく手を振っていた。 「久しぶりだな、道具屋」 ブースに近づき、堂島が男と握手を交わす。間近で相手の男の姿を見た良明は、ギョッと身を引いた。 男は堂島と比べても頭一つ分は高く、一寸の隙もない黒レザーのロングコートに身を包んでいた。手首やウエスト部分にはがっちりとしたストラップがついていて、映画『ブレイド』の吸血鬼ハンターみたいな格好だった。暗い照明とサングラスのせいで容貌ははっきり見てとれないが、淡い金髪と彫りの深い顔立ちから、ハーフか何かだと察せられた。 「いやぁ~いつも堂島さんと志倉さんにはお世話になってますぅ。ウチの商品を置いてもらって。おや、そちらは」 サングラスをかけた目が、堂島の後ろにいた良明に向く。堂島が一歩横にずれ、良明を紹介する。 「道具屋。この人が前に言った、マキの新しいマスターだ。工藤さん、この人はうちに道具類を委託している道具屋だ」 「こりゃ、どおもどおも」 道具屋は、ミステリアスな外見には似合わない芸人のような仕草で握手をしてきた。 「堂島さんからあなたの話を聞いて、会うのを楽しみにしていたんですヨ。契約解消する度、オファーが殺到するマキ君をモノにしたどころか、堂島さんの愛弟子だっていうから、どんな高貴なサラブレットかと思いきや、まさかこんな人だったとはー!」 マシンガンのようなトークに翻弄されて、良明はただ恐縮することしかできなかった。 「すみません。こんな平凡な庶民で……」 「まさかまさか。ウチなんかも庶民主従ですから。ささ、立ち話もなんですからー!」 堂島と道具屋が座ったのを見て、良明も堂島の隣に腰をおろす。だが、いつまで経ってもマキが来ないことに気づいて、辺りを探す。 マキはブース脇の一歩下がったところで膝をついていた。背中で手首をクロスに組み、視線を床に落としている。 それがサブの基本姿勢だということは、良明でももう知っていた。 見ると、店にいるだいたいのサブが、ブースに座ったマスターの横に膝をつき、主人からの指示を静かに控えて待っている。中には志倉と同じように、主人の背後に立ったまま、ボディガードのごとく腕を背後で組んでいる者もいる。 ちくりと、棘のような嫌悪感を良明は感じた。眉が寄っていくのが自分でもわかる。そこへ堂島の声がかかる。 「すまない、道具屋。工藤さんは、パーティーは今日が初めてでな」 「いえいえ~初心者は大歓迎ですヨ。なんなら、ウチの商品を試してみてくれませんかネ。この世界にはこれ目当てで入ってくる人も多いですから。ほら、シュン君も、マキ君の新しいマスターに挨拶しなさい」 暗がりになっていて気がつかなかったが、道具屋の後ろ脇に人影があった。その影がふらりと出てきた時、良明は今日、何度目かわからない驚きの声を呑み込んだ。 二十代中頃だろうか。その男は程良く引き締まった身体をしていた。太くきつめの黒革の首輪から伸びた厚革のベルトが複雑に絡み合いながら、上半身をがっちりと拘束している。剥き出しになった乳首にはチェーンクリップ、前で合わせられた手首にかかった革の手錠は、ウエストのベルトと一体になっている。ギリギリまでしかない黒革のホットパンツからもストラップが伸び、太ももをきつく拘束していた。さらに目元にはシルクの目隠し、口にはボール型の猿ぐつわまではめられていた。 まるでAVのパッケージのような、ボンテージのフル装備。良明がどう反応していいかわからず口をパクパクさせていると、 「あぁ、そうだった。うっかりうっかり」 と、道具屋がボンテージ青年の猿ぐつわを外した。青年は溜まったツバを飲み込むように何度か喉をふるわせた後、唐突に喋り出した。 「どもっス! 俺は道具屋さんのサブ兼カメラアシスタントのシュンっス!」 薄暗くて隠微な雰囲気のフロアに、体育会系の明朗で元気のいい挨拶が響き渡った。堂島たちは苦笑いしていたが、道具屋はまるでボールを拾ってきた子犬を誉めるように自らのサブ──シュンの赤茶色の髪をまさぐった。 「いや~いいでしょ、この子。まだ調教途中なんですけどネ、活きがよくて。だいたいのマスターは素直で聞き分けのいい従順なサブが好きみたいだけど、商人のウチにはこういう勝ち気な子の方が合っていてネー。それにほら、この子、元アスリートだから完璧な身体をしていて、ウチのスタジオの撮影アシスタントだけじゃなく、道具のカタログモデルもやってもらっているんですヨぉ~本当は志倉さんとマキ君にもモデルとして、一緒に参加してもらいたいのですが。あ、ど工藤さん、どうです? お近づきの印に、この新作のアナルプラグを一個プレゼントしますよ!」 道具屋はシュンの足の間から垂れたコードをグイッと引いた。途端、まだ何かを喋りだしたくてうずうずしていたシュンが「あっ……」と切なげな声を上げ、前のめりになる。その身体を支えた道具屋は、相手の耳元で「シュン君。アレをお願い」と囁く。 「はいッス、マスター」 まだわずかに息が上がっていたシュンは弱々しく頷くと、ソファの脇にあった鞄を主人に手渡した。 道具屋は相手の頭をひとつ撫でると、まるで何事もなかったかのように良明たちに満面の笑顔を向ける。 「さてさて、今日は、他にも色々持ってきましたヨーこれがディルドでしょう、コックリングにローター、バイブ。で、これアナルビーズ! どれもシュン君にモニターをしてもらって、満足仕様なことはばっちり確認済みなんで、気に入ったものがあるなら初回のみ特別にサービスしておきますヨ~」 テーブルの上に、色とりどり、形とりどりの責め具がびっしりと並べられる。良明はもはやどこに視線をやっていいのかわからず、頭の中で、テーブル全体にモザイクをかける。 「道具屋。程々にしておかないと、客以前にサブに逃げられるぞ」 慣れているのか、堂島は道具には一切目をくれることなく、手に持ったリードを引いた。すぐさま志倉が後ろから顔を寄せてくる。 「はい、マスター」 「樹。他のマスターたちとの会合は何時からだ」 「一時からです。今日は藤戸マスターが欠席されるとか。何でもサブのリンカ嬢が風邪を引いたらしくて。最近、めっきり寒くなりましたからね。明日も雨が降るそうですよ」 「……そうか、わかった」 堂島は頷くと、おもむろにブースを立ち上がった。 「じゃ、あとはそちらで楽しんでくれ。道具屋、工藤さんを頼むぞ」 と言うと、堂島は志倉を引き連れて、再びバックヤードに戻って行ってしまった。 「今のは、一体……? 二人はどこに?」 良明が向かいの道具屋に問うと、彼はサブの髪をわしゃわしゃとかき乱しながら言った。 「志倉さんがセーフワードを言ったんだヨ。たぶん『ストップ』か『タイム』の言葉を」 「え? 今、ですか?」 「そう。ウチも未だに二人のセーフワードは複雑でよくわからなくてネ。まぁ、セーフワードなんて主従の間の暗号みたいなものだし、わからなくて当然なんだけど」 「へぇ。でも、志倉さんはどうして……? 別に、堂島さんはあの人が嫌がるようなことは何もしていないような……?」 道具屋は、大きく肩を竦めた。 「元々、志倉さんはパーティーでのシーンが苦手なんだヨ。彼、元御曹司だろう。父親とは疎遠になっているとはいえ、やっぱり何らかの形で耳に入ったらと恐れているんだろう。今じゃ、堂島さんの命令になら何でも従う彼でも、やっぱり抜けきれずにいるところはあるらしいネ。ほんと家族っていう束縛(ボンテージ)は何よりも強力だ」 「……ふうん、そんなものですかね」 良明には、よくわからなかった。 良明の両親は、自分の息子がゲイだとカミングアウトした時でさえ「やっと人とは違うところが……!」と歓喜したくらいだ。今じゃ、いつ家に彼氏を連れてくるのかと心待ちにしているらしい。 良明が一生を共に歩んでいけるパートナーを望むのも、何だかんだいっていつまでも仲睦まじい自分の両親の影響が多い。 「まぁ、ここはウチらだけでマスターあるあるを楽しみましょうヨ。──シュン君、バーからビールを持ってきてくれるかな?」 「イエッス、マスター」 シュンは身体中の革や鎖やらを鳴らしながら立ち上がった。だが目隠しをしているためか(もちろんプラグが入っているせいもあるが)、足取りがふらふらしていて危うい。行き交うマスターやサブに一人残らずぶつかっては、「サーセン!」と謝っている。 良明は、隣に膝をついているマキの耳元に顔を寄せた。 「マキ君。彼を手伝ってあげてくれる? あれじゃ、いつまで経っても辿り着かなそうだから」 「はい、マスター」 とマキはすっと立ち上がると、足早にシュンを追いかけた。 人混みの中、ふらふらするシュンの背中を支え、「あっちだよ」と言って誘導するマキは、フロアの誰よりも可愛かった。特に、ぴっちりしたレザーに包まれた小さい尻は、何時間だって見ていられる。 (もしかして、これがマスターの欲目というものなのだろうか……) しみじみと感じ入っていると、道具屋が前のめりになってこそっと質問してきた。 「そういえば、首輪はどうしたの? 実は、まだ契約していないとか……?」 「え? いや、契約はしています。一応、口頭での同意だけですけど……やっぱりおかしいですか、首輪がないのって?」 再度、辺りを見回す。主人の足元で膝をついて待機しているサブの首にはデザインは多々あれど、必ずといっていいほど首輪が嵌められていた。 マスターたちはそのリードを手に、他のマスターとの談笑を楽しんでいる。足元で控えているサブなどまるで存在しないものかのように目もくれていない。 再び、嫌悪感がこみ上げてきて、視線はそのままに道具屋に言う。 「僕、どうもああゆうのが苦手で、ペットみたいというか……あれって、本当にサブはやりたくてやっているんですか?」 「はっ!? ペットの何がいけないのサ!」 道具屋は、びっくりするほど熱っぽい口調で答えた。 「今の時代、ペットは家族も同然ダヨ。食事、健康、身なり、時には生殖までも管理して、ペットがいかに安全に、幸せな毎日を過ごせているか気を配る。誰も愛するペットを虐げたりしないし、逆に自分よりも優先してペットの面倒を見る。そうすれば敬慕と愛情を返してくれるとわかっているから。サブだって同じダヨ。もちろんペットと違って、サブとはシーンが終われば人間同士に戻る。でも、それでお互いの愛情までが消えるわけじゃない」 道具屋はバーでビールを注文するシュンの後ろ姿を愛おしげに見やった。 どうして自分の周りの主従は、こんなにもバカップルばかりなのか。それともこの世界では、どこの主従もこんな感じなのかと、良明は顔を赤くした。 「工藤君。もう一度、フロアを見渡してごらん」 道具屋はひとさし指を、自分の顔の横でくるくると回した。 「よく観察すれば、サブの膝のつき方一つで、だいたいその主従の関係が見て取れる。ほら、あそこのサブを見て。ああやって優雅に膝をつき、立ち上がるサブは主人を心から敬愛している証拠ダヨ。目を伏せていても相手の動き一つたりとも逃さぬよう、常に意識を集中して主人を全身で感じている。主人の方もああやって他のマスターと話し込んでいるように見えても、始終片手でサブの首輪をいじっては、相手の様子に気を配っている。逆に膝のつき方が投げやりだったり、控えている間もそわそわしているサブは、まだ調教中か、契約解消寸前か。でも一つだけ言えることは、どんなサブでも膝はつかされているのではなく、この主人に仕えているという意志を示すために自らついているものなんダ。ま、サブに言わせれば、やりたいやりたくない以前に、主人を慕い畏れる気持ちがあれば、膝というものは自然とついてしまうものらしいけどネ」 サングラスをかけた道具屋の目が、堂島たちが消えたバックヤードで止まった。 「それで言ったら、志倉君の膝のつき方はまさにサブの鏡だよ。上品で優雅で、マスターを敬う気持ちが一つひとつの動作から溢れ出ている。志倉君が膝を折ると、マスター、サブ問わず、誰もが見とれてしまうから、堂島さんはさっきもああやって彼を立たせたままだったんだ」 道具屋はあてられたように額に手をやり、首を振った。 「ほんと、あそこの主従はいくところまでいっちゃって。ウチの道具なんかもういらないくらいだヨ。志倉君を縛り付けたければ、堂島さんが『そこから動くな』と言うだけで、彼は何があっても絶対に動かない。たとえ、地震や宇宙人が襲来してこようとネ」 ケラケラ笑う道具屋とは反対に、良明はそんな気分ではなかった。 「……それなら、何で首輪が必要なんですか?」 低い声で言うと、道具屋は笑うのを止め、首を傾げた。薄いサングラス越しに切れ長の目を、何度か瞬かせる。 「工藤君。君はもしかして、サブに首輪をつけるのは、マスターの趣味かなにかだと思っている?」 「そうじゃないんですか? もしくは、そうゆうプレイのためとか……?」 マキの細い首に巻き付いた青黒い痣の痕が脳裏に甦り、胃の中が燃えるように熱くなった。道具屋が喉から低い声を出す。 「もちろん、そうゆうプレイのための首輪は存在するヨ。君の想像している通り、一歩間違えば、命の危険すらあるプレイのためのネ。ウチはこうゆう職業柄、そのゆうものも取り扱っているけど、このクラブでその手のものを売ったら堂島さんにきついお仕置きをされる。ほんと冗談じゃなくきついヤツ」 道具屋はぶるりと震えたが、まだ硬い表情をしている良明を見て、ふっと静かな目になった。 「だけど本来、首輪はマスターやプレイのためにあるものじゃない。首輪は、サブのためにあるものなんだヨ」 「サブのため、ですか……?」 「そう。首輪というのは、マスターがそのサブを所有しているという証。その証がある限り、誰もそのサブに手を出そうとか、危害を加えようとか思わない。逆に、首輪がないサブは……──ほら、さっそく」 道具屋の視線につられて、良明はバー近くのブースを見やる。そこではいかにも金持ちそうな老紳士が、マキに名刺を差しだし、耳元で何かを囁いていた。隣にいたシュンが「この子にはマスターがいてっ……!」と言っているが、目隠しのせいか、あらぬ方向にわめき立てている。 「なっ……!」 ガタリと席から立ち上がりかけた良明を、道具屋が制す。今までの明るい表情では考えられないほど真剣な、いっそ哀しげな表情で良明を見上げる。 「初心者のマスターである君にはわからないと思うけど、首輪をもらえないサブほど惨めで哀しいものはないヨ。だって首輪をもらえないってことは、それだけの価値──守るだけの価値がないって面と向かって言われているようなものだから。そのくらい首輪というものはサブにとって価値のあるものなんだ」 『首輪はいらない』と良明が志倉に言った時のマキの顔が、幽霊のように現れて脳裏を冷たく徘徊する。次の瞬間、良明はテーブルの上に散らかっていた道具の中から適当な首輪を掴むと、テーブルから立ち上がっていた。 「すみません、お金はあとで払いますからっ……!」 「はーいはーいっ、まいどあり~! あ、これはウチからのサービスだから!」 ブースを横切る寸前、道具屋がポケットに何かを入れたのはわかったが、構っている暇などなかった。今はただ、マキのことしか考えられない。 (もしかしてマキ君は僕が首輪をあげないのは、自分のせいと思ったのだろうか……?) 絶対、そんなことはない。マキに価値がないなんて、思ったことすらない。もし必要ならば、あの細い首に重たく太い首輪をつけ、あのしなやかな身体を鎖とレザーでがんじがらめにしたって足りないくらいだ。 レザーを着た主従が群がるフロアを押し切ってずんずんと進む。ぶつかった人々が文句を言おうと振り返るが、良明の形相を見るなり、恐れをなして引き下がった。 「マキっ、どこだっ!」 先ほどまでいたはずのフロアを見回すが、マキの姿はどこにもなかった。フロア中を探し回って、ようやくダンスフロアの片隅でわたわたしているシュンを見つける。 「マキ君は、マキはどこにいるっ!?」 腕を掴むと、シュンがびくりと身体を引き攣らせた。が、聞き覚えのある声に安心したのか、ほっと肩を落とす。 「そ、それが野太い声をした二人組の男に、あっちの方へ連れていかれちゃったんッスよ! 俺も追いかけようと思ったんだけど、方向感覚がっ──ぶっ!」 シュンが、まるでコントのように勢いよく横の柱にぶつかる。こんな状況でなければ笑ってしまっていただろうが、今の良明にそんな心の余裕は一ミリだってなかった。 「シュン!? 大丈夫かっ!?」 事態に気がついて追ってきた道具屋にシュンを渡し、良明は彼が先ほど指さした方へと全力で駆けだした。握りしめた拳の中で、首輪の革がギシギシと切なげに鳴る。 (僕のせいだ。僕が変な意地を張ったせいでっ……!) どうか無事で、何事もありませんように、と祈る。いや、そんなもんじゃない。もしマキに何かあったら、相手が誰であれ、地獄の果てまで追いかけて、命乞いするまで足蹴りにしてやる。 信じられなかった。自分にこんなに激しい感情があるなんて。怒りと焦りで身体中の血管が焼け爛れているみたいだ。 ──いつの間に、自分はこんなにもあの子に囚われていたのだろうか。 バンと、勢いよく裏口から飛び出す。 大都会とあってか空はネオン色に輝き、夜でも明るい。だがビルとビルの間に挟まれた裏路地は人の気配もなく、不気味なほど薄暗かった。 キキィッと、通りの方から車のブレーキの音がした。ぽつんとある街灯の下、黒塗りの車が一台停まっている。 「やめろよっ! 何するんだっ!」 ──マキだ。 良明は考えるより先に、車に向かって走り出していた。 車の脇にはスーツを着た大柄の男が二人立っていて、暴れるマキを左右から挟み込み、無理矢理、車の後部座席へ押し込もうとしていた。どれほど抵抗したのか、マキのシャツのボタンはちぎれ、布が肩からかろうじてひっかかっている状態だった。 「離せよっ! 俺は絶対に行かないから! あいつとはもう契約は切れたんだっ!」 「黙れ! このマゾのアバズレがっ!」 右側の男の手がマキの後頭部へかかり、頭を思い切り車の屋根部分へと押しつけた。ごつんと鈍い音がした瞬間、良明の記憶は何もかも吹き飛んだ。 「おいっ、その子から離れろっ……!」 何事かと振り返った男たちの隙をついて、右側の男に強烈なタックルをかます。高校時代、レフトタックルポジションを狙って必死に練習した苦労が今になって報われた。 「こいつっ!」 左にいた男が繰り出してきた拳を避け、マキの肩をぐいと掴んで引き下がらせる。 「な、なんでっ……」 肩を抱きすくめられたマキは、すぐ鼻先にある良明の顔をまじまじと見やる。マキの額からは血が滴り落ち、片方の瞼と睫を重たく染めていた。 再び熱いものを感じた良明は、さらにマキの身体を抱き寄せると、数歩先にいる男たちを睨み付ける。 「一体、誰の許可を得て、この子に近づいた?」 タックルをくらった男が、鼻血を押さえながらふらりと立ち上がった。脂ぎったスキンヘッドは怒りで赤く染まり、太い血管が浮き出ている。 「許可だと? そいつはうちのボスの奴隷(スレイヴ)だ。許可などいらない」 「いや、それは違う」 良明はマキの顎を掴んで顔を上げさせると、手に持った黒革の首輪をその首に嵌めた。ガチャリ。金属の音が夜気の中、鮮やかに響く。 ついで驚きに身を引いたマキの身体を、首輪ごと掴んで強引に引き寄せる。 「これは、僕のサブだ。もう二度と僕の許可なく近寄るな」 ○●----------------------------------------------------●○ 3/17(木) 本日、『マイ・フェア・マスター』のPV増加数の方が 6ビュー分多かったので、こちらを更新させていただきます。 動画を見てくださった方、ありがとうございます! 〈現在レース更新中〉 ↓↓以下の作品の動画のPV増加数に応じて、 その日更新する作品を決めさせていただいていますm ◆『マイ・フェア・マスター』(SM主従BL) https://youtu.be/L_ejA7vBPxc ◆『白い檻』(閉鎖病棟BL) https://youtu.be/Kvxqco7GcPQ ○●----------------------------------------------------●○

ともだちにシェアしよう!