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プロローグ
ボーっとした意識の中、視界が段々とハッキリしてくる……。長らくこの状態で居たのだろう、身体の節々が痛む。この体勢からして自分は今、縛られている事に違いはない。術を使えない様に両手の平を金属でできたの手袋の様な物で塞がれている。そして檻の前で見張り番をしている者が身に纏 っているローブに見覚えがある。
ダニエル
「……どういう事だ、なぜ俺がソルに監禁されている。」
「……私からは、何も申す事が許されておりません。申し訳ございません。」
ダニエル
「緊急事態か?それともまたケルスのジジイ共のいたずらか?」
ルドルフ
「……相変わらずの減らず口よの、ダニエルよ。」
ダニエル
「………!!」
信じられぬ光景にダニエルはその目を疑う。檻の中で鎖に繋がれているはずのルドルフが自由の身になっているではないか。檻の扉の両側に立ちダニエルを監視をするソルの者に合図をし、鍵を開けさせ中に入るルドルフの後ろにもう一体の死神の影が見える。
ルドルフ
「まず初めに言っておく、わしはお前の敵では無い。」
ルドルフのそんな発言にダニエルはフっとあざ笑い、こんな皮肉を言って見せた。
ダニエル
「………そうだな、俺の大事な部下とその恋人を殺したけどお前は俺の見方だよな!」
ルドルフ
「信じてもらわねば話は進まん。」
ダニエル
「こんな手荒に拘束しておいて信じてくれはねぇだろ、笑わせんな。」
ルドルフ
「……母親の口からも何とか言ってやってくれんかの、ドーナよ。」
コト…。その者が履いているブーツは少しばかりか小さいようだ。暗い影に隠れていたために来ているローブは黒だと思っていたが、明るみに一歩足を踏み入れた時にその者の身分は明らかになった。そしてルドルフの背後に隠れて立っていたその死神が、ようやく口を開いた。
ドーナ
「そうだな……。」
ダニエル
「……またお前のまやかしか、ルドルフ!」
ルドルフ
「まやかしなどではない。間違いなくお主の母だ。」
ドーナ
「……驚いたか?なぜあんたがここに……と言いた気な顔をしているな。こやつが言った通りだ、お前は少しばかり勘違いをしているのだよ。」
ダニエル
「勘違い?そうか……そうだな、自分の親だと思っていた奴が実は黒幕の一味だったって事は考えてなかったな。グリフィンもか?」
軽蔑するような目でドーナを睨め付けるダニエル。ドーナは彼の前に膝を立ててしゃがみ、その指でそっとダニエルの頬に触れた。ダニエルはそんな彼女の顔面に向かってぺっと唾を吐き、こう言ったのだ。
ダニエル
「………触んじゃねぇよ。」
そんな悪態をつかれても「ふふふ…」とドーナは着ているローブの裾で唾を拭き、ダニエルを真っ直ぐに見つめる。
ドーナ
「お前の唾など汚くも何ともない。汚れたおしめを取り替えたのも、食べ散らかした離乳食を片付けたのも、召使いではない……この私だ。」
ダニエル
「………。」
ドーナ
「ダニエルよ……私を愛しているか?私を母だと思ってくれてはいるか……?」
ダニエル
「……何のつもりだ!お前は一体何がしたい!もうこれ以上俺の心を惑わすな!!」
ドーナ
「私もグリフィンも、お前のためなら死ねるのだ……それは嘘偽りの無い事実。信じられぬか?母だと思った事など無いか?お前の本当の気持ちを聞くのが怖くてこれまでそれを聞けずに居た……ダニエル、お前は私の事をどう思っている?」
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