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指きりげんまん

※後日談です。 「うーむむむ……」  それは紫月と初めて二人だけで出掛けた、いわば初デートから帰宅した夜のことだ。高校一年生の鐘崎は、自室のソファで何やら気難しげに眉をしかめながら考え込んでいた。 (そーいやさっきは話の流れであんなこと言っちまったが――よく考えてみたら……俺が紫月の童貞をもらってやるってことは……)  俺が紫月に抱かれる側になるってこと――!? (……だよな。俺が抱くだけだとあいつがドーテーを卒業することにはなんねえわけだし)  あの時鐘崎が想像したのは、自分が紫月を抱く、イコール紫月も同時に童貞を卒業できるという感覚で口が滑ってしまったのだが、改めてよく考えてみれば意味合いが逆だということに気がついたわけだ。 (うわ……やべえ……。さっきは浮かれてあんなこと言っちまったが、今更勘違いだったなんて言えねえし……)  そういえば『誓う』とまで口にしてしまったのを思い出して蒼白となる。 (ク……ッ、どーすりゃいんだ。紫月に嘘はつきたくねえし、それに――あんな嬉しそうなツラ見ちまったからには、やっぱあれは咄嗟の勘違いだったなんて言えねえだろ)  ガックリ――額に手をやり肩を落としながらも、先程の触れ合いを思い出すと自然と頬がゆるんでくる。 (か、可愛かったな……あいつ。髪はふわふわで、くっ付いてるとあったけえし、いい匂いだし……)  あのまま悪ノリついでにキスくらいしてしまえば良かったかも知れない。そんな妄想が脳裏をよぎれば、次第にゾワゾワと身体中に電流を帯びてくる感覚に襲われる。欲情という名の電流だ。 (やっべ……思い出したらまた……)  あの白魚のような手でもっと触っていて欲しかった。というか触って欲しい。 (ク……ッ、マジでやべえって……)  ドクドクと全身を這いずり回る欲情の波には到底逆らえず、遠慮がちにジッパーを下ろして興奮したソレを慰める。 (し……づきッ……)  ああ、もういい。童貞をもらうのがどうとか、卒業するのがどうとか、抱くだの抱かれるだの役割がどうのだのどうでもいい。彼と肌と肌を重ね合い、同じくらい想い合えたならそれ以上望むものなどないのだから――!  数分後、吐き出した欲の跡を拭いながら少しの虚しさに深い溜め息をひとつ――。  ふとテーブルの上で光るスマートフォンに気付いて開けば、そこには愛しい唯一人からのメッセージ。  遼〜、今日は楽しかった!  また一緒に出掛けるべな♡  短い文字の羅列に思わず瞳がゆるむ。最後に小さく付けられたハートのマークが愛しくて嬉しくて、ゆるんだ頬がフニャフニャになってとまらなくなる。  ああ、また行こう! 楽しみにしてる。  そう返そうと思った矢先、再びメッセージが届いた。  そういやさ、例の話!  ウチ帰ってよく考えたら笑っちまった!  んと、さっき言い忘れた。俺がおめえのをもらってやっから。  だから他の誰かにやるんじゃねえぞ……!  なーんてな(//∇//)←バカw  おやすみ😘  何ともまとまりのない、支離滅裂の文章だが言いたいことははっきりと理解できる。要するに紫月も気がついたというわけだろう。彼の中では自分が抱かれる側の立ち位置だということを言いたかったのだろうが、わざわざこうしてメッセージで送ってくるあたりが可愛らしくて堪らない。鐘崎はゆるみっ放しの表情のまま、短い返事を打ったのだった。  了解!  お前以外の誰にもやらねえ。約束する。  送信して一分二分と時が経つごとにドキドキと心拍数が加速してくる感覚に陥る。  さすがにストレート過ぎただろうか。それとも気色悪いと思われたらどうしよう。そんな思いが沸々とし始まり、ソワソワ――落ち着かなくなる。  と、そこへまた短いメッセージが届いて逸るように開いた。  そこに文章はなく、小さな画像が一枚貼られていた。  だが鐘崎にとってそのたった一枚の画像は何よりの宝物だった。  それは指と指とを結んだ『指きりげんまん』を意味するものだと分かったからだ。  スマートフォンに指きりげんまんを示す絵文字は見当たらない。ということは、ネットの海から探して拾ってきたスタンプか何かなのだろう。 (あいつったら……なんて可愛いことしやがる)  その日以降、鐘崎のスマートフォンの待受画面にはその『指きりげんまん』マークの画像が設定されたらしい。 指きりげんまん - おしまい -

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