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旦那たちの奮闘記

※周焔&冰と鐘崎&紫月の、とある休日の話です。 ゲームに夢中になる旦那組の話。 「白龍! 見て見て! これ、張さんから送られてきた荷物の中に入ってたんだけどさ」  春節の挨拶がてらといってマカオの|張敏《ジャン ミィン》から菓子折りが届けられた日のことだ。国際宅配便の箱を開いた真田が、『こちらが一緒に入っていましたぞ』と言って冰の元に持って来たのだそうだ。 「張からのだって? いったい何を送ってきたんだ」  以前、張からは等身大の犬の着ぐるみがたんまり届いた経緯もあり、周は半ば逃げ腰だ。またあのような代物を着せられた日には――と思うと、警戒して然りなわけだが、どうやら今回はそういった心配はなさそうだった。 「あはは! 今度のは着ぐるみじゃないから安心して。なんかね、ゲームみたいだよ」 「……ゲーム?」  冰が差し出した薄いDVDらしき物を受け取って、周はポカンと瞳を丸めてしまった。何ともファンタジーな絵柄の、確かにゲームソフトのようだ。しかもご丁寧にソフトに合うゲーム機本体とコントローラーまでが二つも付いている。 「張さんからのお手紙が入ってる。なんでもね、このゲームのキャラクターが俺と白龍に似てたから衝動買いしちゃったんだって」 「ゲームのキャラクターだ?」 「うん、この絵のことかな。プレイできるようにゲーム機も一緒に送ります――だって」  見ればここ日本でも有名どころ、誰もが知っているメーカーの最新ゲーム機だ。ソフトの表紙には二人の男性キャラクターが寄り添って写っていて、身長体格などからすれば雰囲気的には確かに自分たちに似ていなくもない。  が、それにしてもえらくキラキラとした絵面は少女趣味そのものだ。いわゆる女性向けだろう。 「えーっとね。龍王に溺愛される美少年のファンタジー冒険モノ――だって」 「ファンタジー……?」 「うん。でもちょっと面白そうじゃない?」  せっかくだからやってみる? と、冰は案外乗り気のようだ。 「ゲーム――ねえ」  周にはおおよそ縁のない代物らしい。 「まあせっかくの|張敏《ジャン ミィン》の厚意だ。一之宮とでも一緒にやってみればいい」  周自身は興味もやる気もないようだ。 「うん、そうだね。じゃあ紫月さんと一緒にやってみようかなぁ」  のほほんと笑いながら冰はゲームソフトを寝室の棚に飾った。  そして週末――。  鐘崎と紫月が遊びに来た際に早速トライした冰だったが、意外にも展開が面白くてのめり込む羽目となった。それというのも、いくつかのステージをクリアした特典で出てきた新たなキャラクターがゲットできたからである。 「わぁ! 次から使えるキャラクターが増えたよ。大地の王で虎の化身だって! かっこいいキャラクターですね。もう一個ステージ進めると、その虎王様に拐われて来て溺愛される美青年がゲットできるみたい!」  揃えば鐘崎さんと紫月さんになるね! と言った冰の言葉に、それまでは無関心で世情話に花を咲かせていた旦那たちの興味をそそったようだ。まるで耳だけがグーンと大きくなってピクピクと聞き耳を立てるような鐘崎の表情が何とも正直というか滑稽だ。 「けど、この美青年をゲットするには難易度最高でクリアしねえとって書いてあるべ? こりゃあ本気で気合い入れねえと簡単には取れねえぞぉー……。ちっと時間掛かるかもなぁ」 「あ、ホントだ。今ので難易度普通でしたっけ? これでも結構手こずりましたもんねぇ」  冰と紫月が残念そうにしていると、亭主二人も仕方なしに加勢してやるかと様子を見にやって来た。 「しゃーねえな。どら、貸してみろ。ゲームつったって、要は敵キャラをぶっ潰しゃいいだけだろうが」  それなら任せろと周はしたり顔だ。 「けど氷川……てめ、ゲームとかやったことあんの?」  現実でいくら腕が達とうが、それとゲームとはまるで別物だぜと言いたげな紫月に、周も鐘崎も少々自尊心をくすぐられたようだ。 「なに、現実も架空世界も大して変わりゃせんだろうが。なあ、カネ」 「だな! 所詮ガキの遊びだ。すぐにクリアしてやるさ」  何とも自信過剰な旦那組だが、いざ始めてみると嫁たちよりも明らかに腕が劣る。というよりもゲームなど触ったことすら皆無のような男二人が、最新システム搭載のコントローラーを上手く操れるはずもなく、舐めて掛かったことを後悔させられる羽目となったようだ。  ところが、元々負けず嫌いの二人。加えて予告画像に出ていた虎の王と美青年が、冰の何気ないひと言で自分たちを連想させるようになったらしく、何と鐘崎が意地になり出したのだ。 「クソ……ッ、こーなったら何が何でもクリアして、この紫月そっくりのキャラクターを手に入れてやろうじゃねえか!」 「確かに――。そのキャラクターが手に入れば龍王と美少年と合わせて四人揃うしな」  ついさっきまではまるで無関心だったくせに、この変わりよう……。すっかり自分たち四人のバーチャル的感覚で遊べるという思考になっているような亭主二人に、冰と紫月は呆れ気味だ。 「よし! カネ、俺もとことん付き合うぜ!」 「ああ、頼む。二人でやった方が楽にクリアできるって書いてあるしな」  その後、旦那二人はゲームに没頭。夜が更けても未だ美青年をゲットできずに目を血走らかせる有り様――。  結局睡魔に負けて先に寝てしまった嫁組だったが、次の朝起きてみると旦那たちはテレビボードの前でぐん伸びていた。一応毛布だけはどこからか引っ張り出してきたのか、二人とも包まって寝ていたものの、ラグの上で枕もせずにノビてしまっている。 「うわ……白龍! 鐘崎さんも……いったい何時までやってたんだろ」 「あーあ、こんなトコで寝ちまってら……。つか、キャラゲットできたんか?」  そっと画面を立ち上げると、そこには雄々しい虎王が美青年の肩を抱いて立つ悠然たる姿――。最初の龍王と美少年と合わせて四人の凛々しい戦士が揃っていた。  編集が可能らしいキャラクター名の欄には、しっかり『イェン』『ヒョウ』『リョウジ』『シヅキ』と打ち込まれていたことに思わず頬がゆるむ。 「無事にゲットできたみてえな」 「本当に……。さすが鐘崎さんと白龍ですね。男に二言なし!」 「つか……まるでガキだな」 「ふふ、ホントですね」  戦士の休息さながらの寝顔を見つめてフッと笑む。 「んじゃ、美味い朝飯でもこしらえてやっか!」 「ですね!」  枕を当ててやり、はだけた毛布を掛け直して、それぞれ亭主の髪を愛しげに撫でる。張敏の衝動買いが二組のカップルたちにもたらしたのは新鮮で和やかなひと時。春まだ浅い朝の光の中に嫁たちの笑顔が膨らむ、そんな幸せな休日だった。 旦那たちの奮闘記 - FIN -

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