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切問近思

──俺の親友は本の虫だ。  中学時代から図書室のありとあらゆる本を読み漁り、休日も市民図書館へ出掛けては本を読む始末。  自宅の本棚は許容量を超えることなく毎回正しく整理され、部屋へ訪れるたびにランナップを変えた。  そこへ並ぶのは決して流行りの小説だけでなく、高校生が普段手を伸ばすとは思えない小難しい新書だったり、骨太な日本文学から哲学、文化人のエッセイと多種多様。  こんな高尚な奴、俺の周りに二人と居ない。というより、今までの人生で奴以外存在しなかった。  将来小説家や学者にでもなるのかと聞いたら奴は首を振った。ただ純粋に本が好きなだけなのかと聞いたら奴はなぜか困ったように微妙な顔をした。  全くもって意味不明。理解できない。  小遣いやバイト代のほとんどを本に充てておいて、好きでもないなら一体なんなんだ。 「もうクイズ王になるしかねぇな。どんな難しい問題でもお前ならすぐにがわかるんじゃね?」  俺がヤケクソみたいに吐いた言葉の何に引っかかったのか、奴の顔色が明らかに変わり口が開いた。 「本当だ……。それが一番しっくりくるかもしれない……」  自分から言っておいてなんだが、その返事に俺は全く、これっぽっちもしっくり来なかった。  お前は全知全能の神にでもなるつもりか? 意味不明にも程がある。世の中にある正しい答えを知りたくてこんな馬鹿みたいに本を読んでるのか? そんなもん別に知らなくたって生きていくのに全くもって困らないだろ。  そもそも世間の誰が高校生である俺たちに、お前に、そんなものを求めるんだよ。  多分俺の顔には「呆れた」とバレバレに書いてあっただろうが、口にするのはさすがに申し訳なかったので我慢した。  それと同時に奴の探究心を止めたくなった──。  中学時代からずっと近くで奴を見てきたが、そうやって知識をつければつけるほど、なぜか奴からはどんどん口数が減って行き、昔ほど笑わなくなったのだ。  本はまるで奴の感情を封じ込める呪いみたいに思えた。  読めば読むほどその呪いが体の中に入っていって、奴の心を蝕んでいるみたいに──  実際この世に呪いなんて存在しないことくらいわかっちゃいるけど、そう思ってしまうくらいわかりやすく奴は変わってしまったのだ。 ──なぁ、もう本なんて読むのやめちまえよ。  お前が本を読めば読むほど、お前が遠くに感じるんだ。こんな風に思う俺はおかしいか?

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