6 / 15

獅子身中

 自宅へ戻り、志翠(しすい)は風呂場の椅子へ腰掛けると、シャワーに頭から打たれながら一人反省会をはじめた。 「俺、どこで間違えたんだろ……」  久しぶりに感情的な清風(きよかぜ)の顔が見れて本当に嬉しかったのに……キレて早口で叱る清風のあの感じがたまらなく懐かしくて、めちゃくちゃ楽しかったのに……。 「清風は違ったのかなぁ……俺のウザ絡みに本気でキレてたのかなぁ……」  悶々と悩み続けることに耐えきれなくなった脳が発熱を起こし、志翠はシャワーの温度を一気に下げ必死に火照りを取り除こうとするが、冷たい水が余計、落ち込んだ感情に追い打ちをかけるみたいで志翠はなんだか泣きたくなった。  昨日のあの星を見た夜にもう一度戻って、やり直したい──俺が間違えたのなら、ちゃんと最初から謝って清風の機嫌をあそこまで曲げずに済ませて、もっと上手くやり直したい……。  目を閉じながら志翠はそう願うが、もう起こってしまった事実は変えられない、戻れない、戻せない──わかっているからこそ、志翠の後悔の色は余計濃くなるばかりだった。  肩を落とし、項垂れながら風呂場を出ると、洗面所にいる姉と鉢合わせしてしまい、完全に気を抜いていた志翠は思わず悲鳴をあげた。 「うるさっ、急にデカい声出すなよっ、この猿!」  洗面所で歯を磨いていた姉が、突然の絶叫に驚き、肩をすくませながら鬼の形相で弟を睨む。 「そっちこそ弟が風呂にいんだから入って来んなよなっブスッ!」 「はぁ? オメーがおかしな時間に風呂なんか入ってるから悪いんだろっ、舐めた口利くならオメーの裸ネットに晒すぞ!」  歯磨きしながら手にしていスマホのカメラレンズを弟に向けながら姉は平気で脅迫してきた。志翠は手でスマホの背面を覆い必死に抵抗する。その間も姉は、濡れるから触るなと声を荒げていた。 「フツーに犯罪だわ! お前それでも女かよっ」 「自分こそガリガリの体にそんな粗末なもんぶら下げといて、ホントに男かよっ」 「そっ、粗末って言うな!」 「じゃあ貧相!」 「お前本当に性格悪いよなっ、彼氏にチクんぞ!」 「うるせぇ、この童貞がっ」  明嵜(あけざき)家は、上二人が女子で、末っ子長男である志翠の立場は常に最下層。特に二番目の姉と志翠は年が近いせいか、昔からしょっちゅう喧嘩しており、聞くに絶えない罵詈雑言の応酬は毎度のことだった。 「アンタたちいい加減になさい! 汚い会話がリビングまで響いてんだからねっ!」 「ぎゃああああっ!!!」  問答無用で引き戸を全開にして乱入してきた母に志翠は追加の悲鳴をあげた。慌てて股間に手を挟みどうにか男性のシンボルだけでも避難させてやる。 「今更何隠してんのよ、お母さんアンタのなんか今まで死ぬほど見て来たんだからね」 「しっ、死ぬほどってっ、そんなの子供の頃の話だろぉっ」 「お前自分の寝相の悪さ知らないの? しょっちゅうパンツ脱ぎ掛けでリビングのソファで寝落ちしてんじゃん。お前のなんて誰も見たくないっつーの。頼むから外でだけはやらないでよね、そんな貧相なモノ見せて回る犯罪者とかマジで迷惑だから」  自分の知らなかった無防備で余りにもだらしない寝姿を姉に赤裸々に語られ、志翠はあまりの恥ずかしさに今にも泣きそうな顔になっていた。母は姉の歯切れの良い言い回しがツボだったのか、だらしない息子の寝姿を思い出したのか、腹を抱えて大爆笑していた。 ──因果応報、応報覿面(おうほうてきめん)……自分が清風にしたことが倍になって返ってきたのだと、志翠は全裸のままひたすらに落ち込んだ。

ともだちにシェアしよう!