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一陽来復
前回親友の部屋に来た時と本棚のラインナップに大きな変化がないことに志翠は安堵を覚えた。
が、机の上に地学オリンピックに向けた参考資料が山積みになっており、それ以前の問題だったのかもしれないと思い悩む。
「ごめんな、清風。俺の脳味噌ではお前の助けになれそうになくて」
「謝らなくていい、別に平気だ。地学も嫌いな分野ってわけじゃない」
「清風渋すぎ」
「そうか?」
難しすぎる過去問の参考書を椅子に座ってペラペラとめくりながら志翠は少し前の流れ星のことを思い出していた。
──あの時、ずっと親友でいられますようにってお願い……結局叶ってない、のかな? 俺たち、もう親友じゃ、ない……よな……。
ふっと視線を清風へやると、向こうも偶然こちらを眺めていて、志翠は危うく口から心臓が飛び出そうになった。
「なっ、なに?」
「ん? なにが?」
「めっちゃ今見てたから」
「ダメ?」
「ダメ、じゃ……ない、けど……」
なんとなく恥ずかしくて志翠は清風から視線を逸らし、俯いてしまう。
「おいで」と手を伸ばされ、素直に志翠はその手を取った。照れながらもその腕の中に包まれ、ベッドに腰掛けていた清風の膝の上へと座る。
少しだけ見つめあって、瞼を伏せるとすぐに唇が触れた。それだけで志翠の頬の温度は上がって、ピンク色に染まる。
もうキス以上のことをしたくせに、可愛げのあるその反応に清風はたまらなくなって微笑む。
深く口付けると志翠は力が抜けそうになる体を支えようと清風にしがみつく。
「……してもいい?」
清風に真っ直ぐそう聞かれて、志翠はますます顔の温度が上がった。
「き、聞くぅ?」
「志翠がしたくなかったらしない」
「馬鹿、俺だって……したい、よ? 清風と……」
「嬉しい」
「もう、なんで清風ってそんな素直なの? なんか俺のが恥ずかしいよ」
「わかんない。なんか、我慢しなくて良くなったんだと思ったら口から勝手に出てる」
「なにそれ、可愛い」
志翠は肩をすくめて清風の首筋へ頭を寄せると桜色の頬で無防備に笑った。
「可愛いはヤメロ、俺には似合わない」
「そんなことない、清風は可愛いよ。エッチしてる時すごく思った。俺の中に挿れたらすごく幸せそうな顔してて、可愛いなって……俺、嬉しかったよ?」
「俺そんな顔してた? 恥ずかし……」
「俺だって恥ずかしいんだから、お互い様」
「確かに。お互い様なら良いな」清風は自身の頭を志翠へと寄せた。
「ねぇ、清風。俺たち……って、親友は卒業してもいい、んだよな?」
「俺は卒業したくない」
「ええ?」ショックで志翠はがばりと頭を上げて目を見開く。
「親友の俺もそのままいたい。それと同時に志翠の恋人にもなりたい」
「え〜、わがままぁ、清風ってば欲張りぃ〜」
ちょっとだけ余裕ぶって志翠は唇を尖らせてみる。
「そうだよ、俺は狡いし欲張りなんだ」
「もう、なにそれ、肩書き多過ぎ」
「大好きだよ、志翠……」
「もう恥ずかしいって」
志翠はぼやきながらも清風が自然な表情をして笑う姿が愛しくて、嬉しくて、自ら体を反転させて前から抱きつく。
「清風、もう大丈夫?」
「なに?」
「もう苦しくない? 俺に話したいことあったらちゃんと言って?」
「志翠に話したいこと?」
「俺の直して欲しいこととか」
「ないよ。して欲しいことしかない」
「それは聞かない、もう嫌な予感しかしないから」
「さすが志翠、勘が良い」
長い両腕に抱き止められて志翠は弾むようにして微笑む。
「清風は俺が今して欲しいこと何かわかる?」
体を離して清風は腕の中で自分を見上げる丸い瞳の志翠を見つめ、すぐに目を細めた。
「わかるよ」
そう告げると再び志翠の腰を引き寄せて形の良い唇をうっすらと開き目の前の恋人へと顔を寄せると、相手は満足そうに長いまつ毛を伏せて微笑んだ。
そのあと調子に乗った清風が散々余計なことをしでかし、泣き腫らした顔で怒り狂う志翠から懇々と説教をくらうのも清風には想定内だった──。
終☆彡
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