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情けないくらい震える声が、助けを求める。
後から思えば、軽い気持ちで電話をかけたらいきなり向こう側で泣いているなんて、嘉貴からすれば困ったに違いない。
相手に迷惑がかかる。いつもならそう配慮できる気持ちも冷静さも、この時の凌にはなかった。それくらい、いっぱいいっぱいだった。
『うん、分かった』
そんな凌の心を優しく包むように、一瞬の躊躇もなく返事が返ってくる。
『今どこ? 何があった?』
「……ね、ねこが、『つばめ』で捨てられてて……熱くて、し、死にそうなのに、お盆で病院がどこもやってなくて……」
『分かった。すぐ行くから、凌はタオルとか持ってるなら水で濡らして、身体冷やしてあげて』
「あ、あぁ」
『五分もしないで着くから。あと少し頑張って、凌。その子を助けられるのはお前だけだよ』
「……分かった」
ず、と鼻を啜り応えた凌に、嘉貴は満足したように吐く息に笑みを滲ませて電話を切った。
ぐい、と涙を拭った凌はすぐさま言われたとおりタオルを取り出して水で十分に濡らしてから絞り、子猫の首元を冷やす。
「頑張れ。絶対に助けてやるからな。頑張れ」
泣いてクリアになった頭で、他にできることはないかと携帯で検索をする。
泣いている場合でも、己を悲観している場合でもなかった。
この子は生きることを諦めていないから、声をあげたんだ。まだ生きようとしている命を目の前に、もう駄目だと嘆いてはいけない。
自分と同じだと思うなら、尚更。自分が見捨てることだけは、してはならない。
「元気になって、うまいもん一緒に食おうな」
相変わらず呼吸も浅い子猫に、それでも懸命に声をかけ続けた。
そして陽に当たりにくい風通しのいい位置に移動してすぐ、『つばめ』の前に一台の車が停まった。
「凌!」
「嘉貴……っ」
「この子?」
車から降りてきた嘉貴に段ボールごと子猫を持ち上げてすぐに駆け寄る。
「一応冷やしてあげたけど、まだぐったりしたままで水も飲まねぇ。でも、さっきより呼吸は楽そう」
「分かった。ここから車で少し行ったところに救急対応してくれる病院見つけて、電話したら受け入れてくれるって。そこに連れて行く」
痛ましげに子猫を見た嘉貴は、間断なく説明をするやそのまま凌を後部座席へ招き入れる。
運転席では徹がハンドルを握っており凌が乗り込むのを確認して扉を閉めてから「行くぞ」と車を目的地へと走らせた。
「ほら、凌も水飲んで」
「んぐ」
いい匂いのするタオルを顔にぶつけられ、ペットボトルを渡される。
用意していた団扇で優しく子猫を仰ぐ嘉貴をぼんやり見ていると、運転席から「凌くん」と声をかけられた。
「大丈夫だよ」
根拠のない言葉と、微笑み。それなのに徹のそれはとても頼もしくて、凌はタオルに顔をうずめて何度も頷くことしかできなかった。
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