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 ――『凌って本当、うちの両親好きだよね。……親って言うか、“家族”かな』――  そうだよ、好きだよ。だって嘉貴の家族は凌の理想で、幸せの象徴そのものだ。  瞼の裏に焼き付いている、嘉貴たちが仲睦まじく語らう家族団らんの光景。 「俺のせいで、お前の家族が壊れるのなんて、見たくない……っ」  情けない声と共に、凌の瞳から大粒の涙が零れ落ちていく。  周りのことなんて、相手の両親のことなんて関係ないと切り捨ててしまうには、凌は愛されすぎてしまった。  徹たちは本当に凌に良くしてくれたのだ。  かいつまんで家の事情を伝えた時には、弁護士を立てる話までしてくれたくらいだ。  生活費を与えられていることと、ことを荒立てたくないという凌の気持ちを尊重してその話は流れたが、その後もことあるごとに食卓を共に囲み、キャンプだ釣りだと誘われては楽しい時間を教えてくれた。  徹たちのおかげで今まで知らなかった経験を沢山させてもらい、凌は初めて無邪気に遊ぶことを知った。  赤の他人にここまで愛情を注いでくれたふたりに恩を感じるなと言う方が無理な話だ。そんな彼らに恩を仇で返すような真似だけは、したくなかった。 「我が儘でもなんでも、お前に家族を捨てて欲しくない。そんなことされても、罪悪感に負けていつかきっと嘉貴のことまで傷つける。それなら最初からつき合わない方がいい。今は辛くても、嘉貴も徹さんたちも全員が幸せになれる相手に出逢えるはずだから。結婚して子ども産んで、家族みんなに祝福される……そういう幸せを全部、俺はあげられないんだよ。頼むから分かってくれよ、嘉貴……っ」  言葉を尽くす度、己にナイフを突き立てていくようだった。  自分は嘉貴と幸せになれないんだと嫌でも思い知らされるから。  涙で溺れて視界が歪む。一刻も早くこの場から立ち去りたい。帰って身体中の水分がなくなるまで大声で泣いてしまいたい。床を濡らしていく水滴をひとつ、ふたつと見送っていた凌の目尻をいつかと同じ綺麗な指先が掠めた。 「なれるよ」  黙って耳を傾けていた嘉貴は俯く凌を覗き込むように身を屈め、言った。怒らないでね、と。 「実はもうふたりには言ってきたんだ、凌のこと」  その言葉に、頭が真っ白になる。何かを考えるよりも先に伸びた手が、嘉貴の胸ぐらを掴んでいた。 「何……っ、なんてことしてんだよ!? そんな……っふざけるのもいい加減にしろ!」  怒りと焦りで今にも殴りかかりそうな勢いの凌に、大して驚く素振りもせず嘉貴はその指先を優しく解き、両の手でふわりと包み込んでしまう。  宝物に、触れるように。 「嬉しいって、言ってくれたよ」 「……え」 「凌が俺のパートナーになってくれて嬉しいって、ふたりとも笑ってた。……ね、もう十分幸せだと思わない? 俺たち」

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