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第28話

***** 『Xデー』からちょうど1ヶ月が過ぎた。  船着場に向かう俊の荷物はバックパック一つだけで、足取りは軽快だった。  10時と15時の1日2便しかない連絡船は、郵便や荷物を届けるのが主で、人間を乗せることは滅多にない。その船に今日2人は乗って、島を旅立っていく。  すでに乗船し待っていた和人は、俊の軽装に驚いたのか目を丸くした。 「おまえ、それだけか?」 「これだけ」 「ちょっと少なすぎないか?」  そう言う彼ときたら大きなトランクに加え、旅行バッグを2つも持っている。きっと望遠鏡の材料やら何やらで、中はパンパンなのだろう。 「君が、身一つでいいって言ってたから」  珍しく和人を照れさせてみた。俊の切り返しに、少しうろたえ視線を泳がせる様が珍しくて笑ってしまう。 「いや、それはまぁ、いいけどな。ただ、本はどうした?」 「本?」 「自作の」 「ああ、処分してきたよ」 「どうして! まさか、やめるつもりなのか?」  表情を険しくする和人に、俊は笑って首を振る。 「今まで書いたものは全部」胸に手を当て「ここに入ってる。これからは、また一から違うものを書いていきたいんだ。今ならなんだか、まったくく新しいものが書けそうな気がするから」 「なるほど、そういうことか」  和人は笑って、力強く頷いた。  彼がいつもいい方に賭けてくれるのを、俊は知っている。だからこれからも諦めずに、いつか絶対にその期待に応えてみせる、と心の中で誓う。  船が汽笛を鳴らし、桟橋を離れ始める。  2人は舳先に立って、小さくなっていく島を見つめる。  大海から見やる島は本当にちっぽけで、まるでおもちゃみたいに見えた。あれが自分の知る世界のすべてだったのかと思うと、何だか不思議な気分になった。  なぜ、出て行くことは不可能だなどと、思いこんでいたのだろう。 「外の世界は、ルックのはじめて見るまぶしい光であふれていました」  和人がつぶやいた。  俊は消えていく島影から目を放し、広い空を見上げた。  真っ青な空に輝く太陽があまりにも眩しかったせいだろう。霞んできた目元を俊は指先で拭った。 ☆END☆

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