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第28話
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『Xデー』からちょうど1ヶ月が過ぎた。
船着場に向かう俊の荷物はバックパック一つだけで、足取りは軽快だった。
10時と15時の1日2便しかない連絡船は、郵便や荷物を届けるのが主で、人間を乗せることは滅多にない。その船に今日2人は乗って、島を旅立っていく。
すでに乗船し待っていた和人は、俊の軽装に驚いたのか目を丸くした。
「おまえ、それだけか?」
「これだけ」
「ちょっと少なすぎないか?」
そう言う彼ときたら大きなトランクに加え、旅行バッグを2つも持っている。きっと望遠鏡の材料やら何やらで、中はパンパンなのだろう。
「君が、身一つでいいって言ってたから」
珍しく和人を照れさせてみた。俊の切り返しに、少しうろたえ視線を泳がせる様が珍しくて笑ってしまう。
「いや、それはまぁ、いいけどな。ただ、本はどうした?」
「本?」
「自作の」
「ああ、処分してきたよ」
「どうして! まさか、やめるつもりなのか?」
表情を険しくする和人に、俊は笑って首を振る。
「今まで書いたものは全部」胸に手を当て「ここに入ってる。これからは、また一から違うものを書いていきたいんだ。今ならなんだか、まったくく新しいものが書けそうな気がするから」
「なるほど、そういうことか」
和人は笑って、力強く頷いた。
彼がいつもいい方に賭けてくれるのを、俊は知っている。だからこれからも諦めずに、いつか絶対にその期待に応えてみせる、と心の中で誓う。
船が汽笛を鳴らし、桟橋を離れ始める。
2人は舳先に立って、小さくなっていく島を見つめる。
大海から見やる島は本当にちっぽけで、まるでおもちゃみたいに見えた。あれが自分の知る世界のすべてだったのかと思うと、何だか不思議な気分になった。
なぜ、出て行くことは不可能だなどと、思いこんでいたのだろう。
「外の世界は、ルックのはじめて見るまぶしい光であふれていました」
和人がつぶやいた。
俊は消えていく島影から目を放し、広い空を見上げた。
真っ青な空に輝く太陽があまりにも眩しかったせいだろう。霞んできた目元を俊は指先で拭った。
☆END☆
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