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第27話

***  台風は2人が想いを通わせた夜の翌日には去って、清々しい晴天が取って代わった。  自分の運命を変えてくれた台風を、俊は惜しむような気持ちで見送った。  その後の5日間を、俊は和人の家で共に過ごした。  昼も夜も、欲しくなれば思いのままに抱き合い、お腹がすくと起きて何か食べ、眠りたいときに眠った。  規則正しく判で捺したような生活しかしてこなかった俊が初めて経験する、愛しい人との自由な日々は素晴しく、この上なく幸せだった。  これまでと、そしてこれからのすべての人生の喜びが、その5日間に凝縮されたように感じた。 『その日』のその時刻を、俊と和人はパティオに籐椅子を出して並んで座り、そこから海を眺めながら迎えることにした。  海は静かに凪いでいた。  まだ日が昇らない薄暗い空に隕石が流れ星みたいに落ちてくる図を想像して、俊はそれを画用紙に描いた。  その縁起でもない絵を、和人は記念に額に入れて飾ろうと言って笑った。  予定の時刻は静かに、爽やかな風が吹き抜けていくみたいにやってきて、そして過ぎていった。  その時刻を10分過ぎたとき、足元に置いたラジオから首相の声が流れた。  隕石は大気圏に突入する前に消滅したと言っていた。あのふてぶてしい強面の首相が涙声で、何度も何度も、同じことを繰り返していた。  二人は綺麗なグラスに自家製ミントティーを注いで乾杯した。  和人は俊に、ほら言ったとおりだろう、と言いたげな自信満々の顔で微笑みかけ、そのままどちらからともなくキスをした。  ミントの爽やかな香りが口いっぱいに広がった。大好きな、和人の香りだった。  水平線が明るくなり、太陽が少しだけ顔を出す。海が宝石をまぶしたように輝きを帯び始める。 「夜が明ける」  つぶやく和人の手が、俊の手をしっかりと握った。その大切な日の始まりは、俊にとって新しい人生の第一歩だった。

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