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第26話

 脱力し息をつく俊の唇に和人は軽くキスを落とすと、体を起こし力の抜けた脚に手をかける。愛しい相手のものを受け入れる部分がどこなのかは奥手の俊でもさすがに知っていたが、いざとなると身がすくんだ。 「上月君……」  見上げた瞳がよほど不安げだったのだろう。和人は切なげな目を細め、困ったように首を振った。 「欲しい。俊、どうしても。嫌か?」  嫌なはずがない。俊も和人が欲しかった。一つになって、もっと深いところで彼を感じたかった。  ただ少し怖いだけだと伝えたくて、唇に頼りない微笑を乗せほんの少しだけ頷く。わかってくれたのか、和人も微笑を返してくれる。 「絶対傷付けない。ゆっくりするから」  和人はそう言うと、俊の遂情の証をその入口にそっと塗り付ける。  周辺から円を描くようにしながら、指が少しずつ中へ入りこむ感触は初めて体験するものだ。 「ぁ……んっ」  痛みはないけれど、妙な異物感に俊は身をよじる。入れられたその部分だけが敏感になり、指が中で動かされるのがはっきりとわかる。頭の中に何かフワフワしたものが詰まったようになり、腰が勝手に浮き上がってしまう。  絶対傷付けないと言ったとおり、和人は根気強く慎重に俊の頑なな蕾を慣らして行く。異物を出し入れされる慣れない感覚が不快ではないものに感じられて来て、俊はいつしかうっとりと瞳を閉じ、触れられ感じるままに素直に腰を動かしていた。 「俊……もう、入るぞ……」  返事をする間もなく、差し入れられていた指が引き抜かれた。物足りなさを感じ身を震わせた次の瞬間、それまでとは比べものにならない大きさの物がそこを押し開いてきた。  急に恐怖が突き上げ、体が逃げそうになる。 「少しだけ、我慢してくれ。拒むな」  ――拒みたくない。彼を受け入れたい。  そう思うと自然と体から力が抜けた。  一瞬だけ感じた恐れは少しずつ、繋がりが深くなる悦びに変わる。自分の体の中が和人でいっぱいになっていく感覚に、俊はほとんど酔ったようになり、見上げる目は感極まって潤んだ。  和人は、俊が泣きそうになっている理由をつらいからだと思ったらしい。進入を止め、宥めるように抱き締め背をさすってくれる。 「つらいか?」  俊は首を横に振り、控えめに腕を回し自分から和人にしがみついた。衝動のままに思い切って脚も絡めると繋がりが深くなって、和人自身が中で動く感覚がリアルに伝わった。 「つらくない。嬉しい……。大丈夫だから、もっと、来て……」 「っ……そんなに、煽るなよ」  和人の普段とは違う色香を感じさせる声が届き、自分の中に埋められた彼自身も膨れ上がるのがわかり、俊もまた興奮し熱くなる。  そのままじわじわと入ってきたそれが、ゆっくりと引き抜かれ、また貫くことを繰り返す。 「あっ……あぁ! や、ぁ、……っ」 「っ……俊……すごいな、気持ちいい」  胸がいっぱいになってしまって、何と答えたらいいのかもわからない。ただ、和人に喜んでもらえているということが、俊自身をも大いに昂ぶらせていく。  抽挿の途中でたまらなく感じてしまう部分があり、和人のものがそこを掠めるたびに恥じらいもなく甘い声を上げてしまう。一回達したはずなのにまた勃ち上がってしまっている慎みのない中心は、和人が動くたびにその腹で擦られ、いつ達してもおかしくないくらい硬くなっている。 「こう、づきくん……っ……も、もうっ」 「今度は、一緒にいこう」  耳元でそう囁きながら、和人がギリギリまで引き、もう一度奥まで突き上げた瞬間、頭の中が真っ白になって俊は堪えきれずに吐精した。蕾は和人を断続的に締め付けてしまい、無意識に絶頂に導く。体内で熱い飛沫が弾けるのを感じ、夢を見ているように意識が霞んだ。  上月和人という人間を形作っている大元の成分が自分の血脈に混ざった気がして、もう腕の中にいる人を他人とは思えなかった。  波のように寄せては引いていく感覚に翻弄されながら、二度と離れないようにしっかりと相手に両腕を回す。 「俊……俊……」  名前を呼んでくれる声にはクールな彼とは思えない熱情が滲んでいて、俊の閉じた瞳は自然に熱くなった。  体に埋まった愛しい人のものがゆっくりと抜かれていくのをひどく惜しく思いながら、首を引き寄せ控えめにキスをねだる。それは焦らされずすぐに与えられ、俊は深い安心感に身を委ねた。 「俊……聞いてくれ」  最高の幸福感に心身を委ね、広い胸でたゆたう俊の耳に和人の真剣な声が届く。目を開けると、優しさと力強さに満ちた瞳とぶつかった。 「もしもおまえが悪い方に賭けていたとしても、今からはいい方に賭けろ。俺と同じ未来を見て、信じろ。世界がこのまま続いていっても、大丈夫だ。俺達は離れない」  和人の声は自信に溢れていた。その声が、不安に支配されていた俊の心を強さで包みこむ。 「離れない……本当に……?」 「ああ。どんなことがあっても、2人なら乗り越えられる。俺が守ってやるから、おまえも、勇気を持ってくれ」 「勇気……」 「そうだ、勇気だ」  勇気――そのたった二文字の言葉が、これほど尊く感じられたことはない。 「僕にも……持てるのかな……」  本当に、できるだろうか。  島の決まりもこの世のモラルも全部踏み越えて、自分も飛び立てるのだろうか。  愛する人の手を取って、見たこともない遠くの地に共に降り立つ日が、本当に訪れるのだろうか。 「絶対に持てる。なかったら俺が分けてやる。おまえが安心できるまで、そばにいてずっと見守っててやる。だから、」  新しい世界の始まりを一緒に見よう、と囁かれた力強い一言が、耳元から体中に浸透していく。  迷いも不安も、今は嘘のように消えていた。体を繋ぐという行為は、すべての負の感情を消し去ってくれるのだと知った。  俊はしっかりと頷いて、愛しい人の背に回した腕に力を込めた。

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