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第4話

 1ー4 フェンリル  それだけでは、なかった。  奥様の『通販』では、時々、生き物も召喚されるのだ。  この前は、干し肉ではない新鮮な肉が食べたいとかおっしゃって巨大な魔獣マッドモゥを召喚された。  そのときは、大変なことになった。  もう、思い出したくもなかった。  だが、問題なのは、このことだけではなかった。  実は、この奥様の『通販』には、料金が発生するのだ。  奥さまには、王国から月々50万リーブルのお手当てが支給されている。  これは、俺の一月の給料のおよそ100倍の金額だ。  にもかかわらず、奥様は、お考えもなく『通販』されるものだから、たまったものではない。  いくら金があろうとも足りることがなかった。  仕方がなく、足りない分は、辺境伯の方で賄っておられるのだが、それがかなりの額であり、さすがの辺境伯も頭を痛めているのだという。  というわけで、俺の役目の内の1つは、奥様の無駄遣いをたしかめ、監視することな訳だった。  が、いくら俺がくどくど説教しても、奥様は、どこ吹く風、まったく平気で『通販』をやめようとはされなかった。  「小遣い帳をつけてください」  俺は、そう言って奥さまに帳面をお渡ししたが、まったく効果は、なかったし。  まるで、なんとかに刃物状態だし。  奥様の部屋を辞した俺は、最近の俺の定位置である台所に向かうとすみに置かれている木製の椅子に腰をおろしてため息をついた。  「きゅうん」  鳴き声がして、見上げるとそこには、小熊のような大きさのふかふかの銀色の毛並みの生き物が佇んでいて俺をじっと見つめていた。  「よしよし、お前が悪いんじゃないからな、大丈夫だぞ、リツ」  俺が話し掛けながらそのふかふかの体をもふもふしてやると、リツは、気持ち良さそうに目を細めた。  リツは、フェンリルの幼体だ。  ある日、1人で晩酌しながら酔っぱらわれた奥様が『通販』で勢いに任せて 購入されたものだ。  そのお値段は、5億ニーブル。  このときは、ハツ様も青ざめて口をパクパクさせておられたものだった。    

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