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第16話

 2ー2 夜営しましょう。  俺たちは、その日は人里はなれた森で夜営を営むことにした。  予定では、次の町まで行けるはずだったんだが、馬が思ったよりも疲弊していて休ませてやる必要があった。  俺たちは、小川の側に馬を止めた。  「キャンプ!」  奥様は、無邪気に跳び跳ねて喜んでいる。  「キャンプ、キャンプ!」  早速、奥様は、『通販』でなにやら購入された。  現れたそれを俺たちに渡すと奥様は、満面の笑みをうかべた。  「これ、つまらないものだけど。これで、二人の世界を作って!」  はい?  俺は、一緒に渡された説明書を見ながらそれを組み立てていった。  なるほど。  何かの革で出来ている小屋のようなものができあがった。  これは、いい!  俺は、ここで奥様に休んでいただくことにした。  が、奥様は、これは俺とテオにと譲らなかった。  「二人の尊い愛の巣にして!」  「愛なんてないので、いりません」  こうしてこの小屋で奥様に休んでいただくことにした。  俺たちは、手分けして火をおこして夕飯を作ることにした。  夕食は、アニタス様の捕ってきたオオアカガラスの肉を煮込んだシチューと焼き肉だった。  戦力外の奥様は、俺たちに見たことのない香辛料を差し出した。  「マジックスパイス、よ。美味しくなるから使ってみて」  俺は、それを受けとると半信半疑で肉にまぶしたりしてみた。  しばらくすると辺りに肉の焼けるいい匂いが漂い始めた。  俺たちは、美味しく夕飯をいただき、奥様は、早々に小屋へと入られた。  残されたのは、勇者と俺とテオだった。  テオは、猫の姿のままだったから、実質、俺と勇者の二人っきりだ。  俺は、なんだか気まずかった。  勇者アニタス様は、とても美しい男だ。  金の糸のような髪に褐色の肌をしたこの男は、歴代勇者の中でも特に美形だと名高かった。  ことにその美しい紫水晶のような瞳で見詰められると男女の別なく恋に落ちると有名だった。  それでもこの武骨な男は、ルルゥ様と出会うまで浮いた噂の1つもなかった。  実は、その外見に反して真面目で奥手な勇者アニタス・セイダーズなのだった。  

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