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第38話
3ー10 帰郷
座席は、操縦席に乗り込んだ奥様の隣にミミル先生が座り、後ろの席に俺を真ん中に挟んでテオとキュウが腰かけた。
「さあ、みんな、出発するわよ!」
奥様は言うと、操縦席のボタンをポチっと押した。
その鉄でできた獣が息を吹き返したように唸り声をあげ振動し始めたかと思うと、すごいスピードで走り出した。
マジかよ!
俺たちは、生きた心地がしなかった。
奥様は、王都から北へと伸びる街道を飛ばした。
すれ違う旅人たちが俺たちをぎょっとした顔をして見守っていた。
少しして俺たちは、自動車にも慣れてきた。
この自動車という乗り物は、驚異的だった。
馬車でも1週間はかかる道のりをたったの2日で走行した。
「考えられない!」
しかも、馬車より揺れも少なくて快適だった。
俺は、道中、ミミル先生がくれたつわりを和らげる薬のせいか、眠くってしかたがなかった。
そんな俺のためにキュウは、足元へと逃れ、テオが膝枕をしてくれた。
俺は、恥ずかしかったが、眠さのあまりそれを受け入れていた。
街道を北へと進んでいった俺たちは、ところどころの宿場町で休憩をとりながら和やかに旅を続けた。
本当は、こういった宿場町で宿をとるのだろうが、奥様は、宿泊することなく進み続けた。
奥様は、一昼夜車を走らせ続けた。
というのも、カナンの村の辺りには、奥様が安全だと認める宿がほとんどなかったからだった。
国の北の外れへと向かうにつれて
街道沿いは寂れていった。
そんな中で営まれている宿は、たいていが売春宿とかで奥様とミミル先生が宿泊できるようなところではなかったしな。
さすがに奥様1人で自動車を操縦し続けることは、難しかったのか、途中で奥様に代わってミミル先生が操縦していた。
旅の最中に奥様がミミル先生にこわれて自動車の操縦方法を教えていたし。
そうして俺たちは、出発して2日後の夕方にはカナンの村へと無事に到着した。
俺たちは、自動車に乗車したまま、村の中央にあるマイルズの家へと向かった。
マイルズの家の前に奥様が車を停めて、俺たちが降りるのを村人たちが遠巻きにして眺めているのがわかった。
俺は、マイルズの家の前に立ってしばらく懐かしい家を眺めていた。
ちっとも変わっていないのは、きっとマイルズたちが大切に修復を重ねながら生活をしているからだろう。
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