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第39話

 3ー11 徴兵ですと?  「もしかしてティル兄ちゃん?」  マイルズの家の前に立っていた俺に誰かが声をかけてきた。  俺は、声の主を振り替えった。そこには、金髪のおっさんがいた。  「もしかして、サナ、か?」  「そうだよ、ティル兄ちゃん!」  俺は、金髪の薄くなったおっさんに歩みより抱き締めた。  「サナ!」  サナは、マイルズの家の末っ子だ。  当時は、金の巻き毛がふわふわで天使のようにかわいらしかったのだが、現実は、厳しかった。  ひょろっとした髪の毛の薄いおっさんに成長したサナは、俺のことを抱き締めて涙を流した。  「よかった、帰ってきてくれたんだね、ティル兄ちゃん」  「ああ」  俺は、昔のようにサナの頭を撫でながら頷いた。  「しばらくは、この村で暮らすつもりだ」  「父さんたちが聞けば、どんなに喜ぶか」  サナが表情を曇らせるのを見て、俺は、ぎくっとした。  「まさか、みんな、もう」  「ええっ?」  サナがキョトンとしてから、すぐに笑顔で答えた。  「いや、違うよ。みんな元気だよ」  マジか。  俺は、ほっと息を吐いた。  「ただ」  サナは、続けた。  「ちょっと事情があって今は、村にはいないんだ」  「どういうことだ?」  俺が問うと、サナがきょろきょろと辺りを見回してから俺には小声で囁いた。  「実は」  サナが言うには、最近、このカナンの村のあるルーミッジ辺境伯領と国境を隔てる隣国のアーミティア公国の国境の街クリミールとの間で小競り合いが続き、いつ戦争になるかもわからないのだという。  ルーミッジ辺境伯は、領地内のすべての村や町に徴兵令を出した。  「でも、うちの村には兵隊に行けるような健康で若い者はいなくって。仕方がないからケイン兄さんとカイ兄さんがこの村からは、兵隊に出たんだけどそれでも数が足りなくって。それで、父さんも」  「マジかよ?」  俺は、愕然としていた。  マイルズは、もうかなりの年の筈だ。  そんなマイルズまで出兵しなくてはならないなんて。  サナは、病弱なため、村に残されたらしい。 「仕方がないんだ」  サナは、俺たちを家へと招き入れるとリビングでお茶をすすめてくれた。  だが、奥様たちは、そのお茶を1口のんでテーブルへと戻した。  それは、はちみつ茶だった。  すごくうっすい。  もう、ほとんどただの白湯でしかないお茶だったが、おそらくこの家にとっては、貴重なものの筈だ。  俺は、サナの入れてくれたお茶を飲み干した。    

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